安全な戦争
それよりもこの村で感じる違和感のほうが大きい。日本や連合軍の合同キャンプとは、人々の暮ら
し方が『異常』だった。
「さ、こっちきて。サムエル〜」
工場のような場所に、俺は連れてこられた。中にいる大柄の男がこちらに気が付くと、手を挙げ
て応えた。
「よぅ、アンナ。どうしたんだ?」
「祭りの準備進んでる?」
「いや、それがよ……。どうにか間に合わせようと頑張ってはいるんだが、動物の世話もしなくち
ゃいかんから、どうにも滞りがちでな」
「なんだ。ならいい労働力がいるよ。彼はマモル。砂漠で倒れていたところを助けたんだけど、ど
うにも言うことを聞いてくれなくてね。使ってあげて」
勝手に進んでいく話を前に、俺は体勢を立て直すのに精いっぱいだ。アンナが腕を引っ張る力は
基地にいる特殊部隊の豪傑たちとさほど変わらない。いや、それ以上かもしれない。彼女のさほど
大きくない腕の筋力は、どこに力を出す源があるかと思うほどだ。
「そうかそうか。兄ちゃん……いやマモルか。お前さんも大変だな、こんなおてんば娘につき合わ
されちまって」
「は? なんなのよ、それ」
「まぁ、そう怒るなって。元気が一番、ってことだ」
「そう? じゃあ、私は夕飯の支度もあるから、家に戻るわ」
アンナはきつく握っていた手をぱっと放すと、俺の背中を押しだした。
「じゃあ、頑張ってきてね〜」
そんな馬鹿な……。
俺が嘆く暇もなく、サムエルと呼ばれた男はにんまりと笑って、
「じゃ、さっそく手伝ってもらおうか」
と遠慮なしに笑った。
誰かこの村民たちに、謙虚という言葉を教えてやってくれないか。