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空野 いろは
空野 いろは
novelistID. 36877
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安全な戦争

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 目覚めるとそこは、今はないはずの自宅だった。
 俺はベッドで目覚め、上半身を起こした。
 夢……だったのか?
 俺は辺りを見渡した。壁にはアニメのポスターが貼られており、机の上は教科書とノートの山が
できており、辺りには脱いだ服が散乱している。
 なんだ、夢じゃないか。やけにリアルな夢だったな。
 俺は布団をのけて起き上がった。パジャマのまま階段を駆け下り、洗面所に向かう。鏡の前に立
った俺は自分の顔を見る。髪はぼさぼさで、目やにが付いており、口元にはよだれの跡がある。
 やっぱり夢か。砂漠でさまよう夢を見るなんて、俺はどうかしたのかな? あとで心理学の本で
も読んでみるか。
 俺は西洋風の蛇口をあけ、水を出す。両手で水をためて顔を洗い、タオルで顔を拭いた。再び顔
を見ると、無様な顔ではなくきれいに洗われた顔が映える。俺は次に歯ブラシを取り、歯磨き粉を
つけて歯を磨いた。磨いた後は水ですすいで吐き出す。俺は蛇口を閉めてリビングへと向かった。
「おはよう」
 ドアを開けながら、挨拶をする。リビングの中央にはテーブルが置いてあり、ちょうど誕生日席
になる部分に中型のテレビが置かれ、お父さんが朝のニュースを見ながら挨拶を返した。
「おはよう」
 俺も席の一つに座る。するとお母さんがリビングと一体になっているキッチンから出てきて、俺
の目の前に朝ごはんのメニューを並べる。ごはん、味噌汁、焼き魚、お茶。
「ほら、早く食べて学校に行きなさい」
 はーい、と適当に生返事をして、朝食を食べ始める。箸を使ってもぐもぐと咀嚼しながら食べ進
めていく。
「そういえば、今日リアルな夢を見たんだ」
 お父さんはテレビから目を離し「ほう」と頷く。
「なんか、俺は戦車に乗ってて、戦闘に巻き込まれて仲間がみんな死んじゃうんだ。俺は一人だけ
生き残って、砂漠の荒野をさまよう、って夢」
「ふーん」とお父さんは適当に相槌をうつ。
「それは映画の見過ぎだな。この前のアクション映画に影響されたんだろう」
「あ、この前テレビでやってた映画観てたの?」
「ああ。俺は映画館で観た」
「そうなんだ」
 お父さんと話しながら食べ進め、ようやく俺が朝食を食べ終えたところで、弟がどたどたと階段
を駆け下り、リビングの扉を半ば蹴り飛ばしながら入室してくる。
「やっべ! 寝坊だ!」
 俺が起きてきたと同時にお母さんが並べた食事を食べ始める弟。その食べ方は忙しく、ぼろぼろ
と口から食べ物をこぼしている。
「うわ、汚ね」
 俺は弟が急いで食べているのを見ながら、リビングから出て階段を上る。自室の扉を開け、今日
の授業はなんだっけ? と思い出しながら、ランドセルの中に机の上に置いてある教科書とノート
――今でも紙を使ったものが使われている。学校では電子書籍を使って授業を進めていくこともあ
るけど、基本的には黒板にチョークで先生が板書を書きながら授業を進めていくのが基本だ――を
無造作に取り出して放り込む。
「よし」
 すべての教科書を入れ終わったところを確認して、ランドセルを背負う。それなりの重さが肩に
かかり、俺は扉を開けて廊下に出た。
 階段を下りて玄関に向かう。靴を履いて玄関のドアに手をかけ、静脈認証でドアのロックを解除
する。
「いってきまーす」
 突然、背後から煙の臭いと一緒に、背後から炎が巻き起こっているのがわかった。
「うわ!」
 ひどく熱い。肌が焼け焦げそうだ。
「お母さん? お父さん? 雄介?」
 家が燃えている。辺りは煙に包まれ、壁や家具が燃えている。火災報知機が家全体で鳴り響き、
スプリンクラーが水を勢いよく吐き出すが、効果はあまりないようだ。
「お父さん!! お母さん!! 雄介!!」
 リビングの扉を開け、叫ぶ。だが誰も応答はしてくれない。
 俺は手を押さえ、煙を最低限吸い込まないようにしながら寝室に向かった。そこはお父さんとお
母さんが寝ているところだ。二人仲良く、俺や弟の雄介が離れても一緒に寝ていた。
「お父さん!! お母さん!!」
 俺は寝室で叫んだ。そこには二人の骸があった。全身が真っ黒に焼け焦げ、二人して抱き合って
いる姿で少しも動かない。
「兄ちゃん……」
 消え入りそうな声が聞こえた。洗面所からだ。俺は早足で向かうと、そこには全身を炎に包まれ
た弟がおり、こちらに向かって話しかけていた。
「熱いよぅ。助けて、助けて、兄ちゃん……」
 こちらに精一杯手を伸ばしてくる。俺はその手を取ってやりたいが、炎の海にいる弟に近づくこ
とはできない。
「熱い……熱い……」
 別の声が聞こえる。家族とは違う、声変りを迎えた男の声がした。
「二曹、助けてください……」
 柏木と沢村だ。二人も弟と同じようにして助けを求めている。手を懸命に伸ばし、助けを請う。
 無理だ。助けたいが、俺には無理だ。そんなことをしたら、俺もお前らと同じように死んでしま
う。俺には無理だ……。
「だから殺さなかったのよ」
 別の声が背後からする。俺が振り返ると、そこにはフルフェイスのヘルメットをかぶったライダ
ーが立っていた。
「あなたは永遠に苦しみなさい。全部を見捨ててきたんだから」
 俺はライダーに蹴りを入れられ、炎の海へと投げ込まれた。
 じりじりと肌を焼かれ、全身を炎が焦がしていく。お父さんやお母さん、弟の雄介、柏木や沢村
と同じように……。

作品名:安全な戦争 作家名:空野 いろは