ウリ坊(完全版)
こぶた再登場(恵)
駅前でまだ冬がうろうろしていたので声をかけた。すると瞬く間に雪で
白くなって逃げようとしたので実力行使に出る。雪だるまにして
持ち帰ったのだ。
裏ペットショップ・可愛らしいのお店は元は裏花屋で母から受け継いだ物だ。
外装は姉の趣味でピンク。嫌いな色だが塗り替えるのも面倒なので
そのまま使っている。家族がいなくなった今でも。
私はそこに白い冬を持ち帰った。
紅茶とクッキーを用意すると、いつの間にやら雪が解けて、水たまりの
上にふわふわした空気が乗っていた。
「あの……こ、困ります。そんな、もてなして頂くのは……っ」
かすれた、懸命に絞り出したような声で冬は言う。私は気にせずカップに
紅茶を注ぐ。
「いいから座ってよね。あなたの名前は?」
「……ま、真冬です」
「そう。私は恵。よろしく」
「はっはい、よろしくお願いします。あ、あの」
「今年の春なら私の知人の店にいるよ。いま地図書くからこれ飲んでて」
「は……春さんにお会いしたんですか? 良かった……私、探して
くるように神さまから言われてて……でも場所わかんなくて……良かったぁ」
うれし泣きの声。可愛いな、と思った。こんな態度、私じゃとても無理だ。
私は再度席を勧めると、地図を書こうとメモとペンを取る。その時、
玄関がすさまじい音を立てて開いた。何事かと思って見ると
いつかのこぶたが立っていた。鬼のような形相、といいたいところだが、
きわめてゆでだこに近かった。
「ドアを壊さないで。修理代がかかるし面倒くさいから」
「知ってるのよ」
こぶたは言い放つ。何を?
もう一度ドアが開いて、ウリ坊が心配そうに顔を覗かせた。言いつけを破った
罰として放っておいてきたのだ。所在なさげに私とこぶたを見比べている。
「ここで、レモンのコピーを作っているでしょう! バーで見たわ!」
ということは、バーにこぶたが来て、ウリ坊が後を追って帰ってきたのだろう。
コピー作りは昔はともかく今は合法である。何を勝ち誇ったように言っているのだ?
「まあいいわ。仕事して頂戴。この体をレモンイエローに変えて。コピーするほどの
技術があれば、お手の物でしょう?」
これは、もしや。
「あんた、レモン色になりたくてレモン食ってたのかね」
「そうよ。色変わりすればいいのに、ただ単に酸っぱいだけだったわ!」
当たり前だ。
こぶたは照れ隠しのためか、勢いよく鼻を吹き鳴らす。
「高級ブランドのパニクイレモンみたいな色にして!」
「はいはい。ウリ坊、色を買ってきてくれるかね。その間に準備しておくから」
私は戸棚から白い果実とパニクイレモンの色カードを取り出すと、ウリ坊に渡した。