ウリ坊(完全版)
ストーカー?(ウリ坊)
チャイムが鳴ったので、おいらはいつものように応対しようとソファから降りた。
降りてから気付く。ここは他人の家だ。恵と談話(談笑ではない)していた
飄が慌てた様子でおいらの隣をすり抜けていく。
誰が来たのかな。おいらは好奇心にの重みに耐えかねて恵を見た。
「ウリ坊」彼女はため息をつく。「良いけどね。見てくれば」
おいらはぽてぽて歩いて玄関にたどり着く。20代前半くらいの
スーツ姿の女性が立っていた。
飄は今までとは違った堅い声音で言う。
「帰ってくれ」
女性は「帰ってくれ」の「を掴むと、おいらたちが見ている前で庭先へと
投げ捨てた。握り拳大の黒い虫が近づいて、「帰ってくれ」を転がしていく。
あれは図鑑で見たことがある、確かフンコロガシと言うはずだ。
「君は一体何回僕の家へ来るつもりなんだ。いい加減にしてくれ」
「えーっと、一年が365日で今日で1年と一ヶ月だから395日? かな?
間違ってたらごめんね。私、計算苦手なの」
おいらが見ていることにようやく気付いたらしく、こちらに向かって
中腰になる。
「わー、可愛い。新しいペット?」
「友人のだよ。来客中なんだ。頼むから帰ってくれってだからメモに書くなよ。
そんなデータを集めてどうしようってんだ」
「もう、うるっさいなぁ。調査中なんだから静かにしてよ!」
おいらには何だか飄が迫力負けしているみたいに見えた。ちょっと良いかな、
と、後ろから声がした。女性の顔がさっとこわばる。
「なにあんた、女なんか連れ込んで! いーけないんだいけないんだー、
書いちゃおう♪」
「いけなくはないよ! 失敬だなっ」
「痴情のもつれ中申し訳ないんですけど」
「痴情のもつれでもない!」
「最後まで言わせてよ。ワニが苦しんでるみたいなんですが」
えっ、とおいらたちは慌てて居間へと駆け込んだ。ストーカー女を置いて。
ワニは床で苦しそうに暴れていた。下腹が異様に膨れている。
「何か生まれるのかよぉ」
「いや、オスなんだけど」
恵は携帯を取り出す。「あの、ワニなんですが苦しんでいて。はい。……はい、
ダメですかやっぱり」
携帯を切る。「ワニは救急車では運べないそうです。車は無いんですよね?
タクシーを呼びます。ペット病院へ……」
「ちょっと待って。救急車はダメでタクシーは良いの!?」
「それも確認を取らないと」
だがそれも取り越し苦労だった。ワニはおげえと叫ぶと口から勢いよく
こぶたを吐き出した。