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ウリ坊(完全版)

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駅名(ウリ坊)



朝、玄関の扉を開けると目の前に駅が出来ていた。
コンクリートで丁寧に作った後、二十年ほど放置されたような寂れた
駅だ。ちゃんとベンチも自販機もある。が、何故か線路がない。
それだけでも驚きなのに、何故かこぶたがベンチの上でラジオ体操を
している。おいらは家を飛び出して走った。
「な、何してるんだよぉ」
「あら?」
こぶたは眠そうな半眼をこちらへ向けた。
「ああ、あんたんちここだったの。おはよう」
「おはようじゃないよぉ。何なんだよこれは」
こぶたは心底馬鹿にしきった鼻音を立てる。
「知らないなんて、脳がワタアメな奴ね本当に!」
「ど、どういう意味だよぉ」
「良い意味だと思って?」
「悪い意味だよぉ」
「ハズレね!」
こぶたは高らかに笑う。
「あたしが口にすることは全て、良い理論に基づいているのよ! 良い?
あなたの脳はワタアメ。つまり私に対して、脳がないのですみません教えて
くださいと教えを請う理由があるということよ!? 親切にも尋ねやすく
しているというのに本当にお馬鹿さんね! 相手にしてられないったら
ありゃしない!」
こぶたはまくしたてると、少し気が済んだのか黙り込んだ。肩が派手に上下している。
おいらは朝っぱらから深い疲労を感じた。
聞かなきゃ良かったとはこのことだ。
「……せ、説明をありがとうだよぉ。でももういいよぉ」
「あら、そう? 残念ね」
こぶたのちっとも残念そうじゃない声に背を向け、おいらは家に戻った。
恵は牛乳を飲んでいる。朝食が食べられない恵の朝食代わりだった。
おいらが外で見たことを話すと、カーテンから外を覗く。あっさりと
「あれは、野良駅だよ」
初めて聞く駅名だ。
「移動車両みたいなものかよぉ」
「馬鹿。全然違う。路線に定着せずにふらふらと移動する駅のことを
言うんだよ。次にどこに行くか、どこに現れるのか分からない駅でね」
「そんなので役にたつのかよぉ」
外から、こぶたが何やら叫ぶ声がしてくる。
「立たないね。今じゃ捨てられたペットや浮浪者の寝床みたいなもんだし」
「じゃあ、あのこぶたは野良なのかよぉ」
「そういうことだね。お金は持ってるみたいだけど」
「こぶたは説明が嫌いなんだよぉ。家なら家って言えよぉ」
ぼやくと、恵は窓に向かって固い声音で言う。
「言いたくないことは誰にでもあるんだよ」
寂しげな様子でカーテンを締める。最近様子がおかしい。夏親分に
会いに行ったあの日からだ、とおいらは感じていた。

作品名:ウリ坊(完全版) 作家名:まい子