ウリ坊(完全版)
春夫婦(ウリ坊)
駅前通に行く途中に桜並木がある。今年は花見をしないまま
葉桜になってしまった。花びらと花びらの間から覗く若葉は
美しい。ふわふわの花びらの絨毯が蹄の下で汚れ、ちぎれていく。
おいらたちは立ち止まった。
樹齢の長そうな桜の木の下で、真冬と梅が寝ているみたいな今年の春に
すがりつき、おいおいと泣いていた。
縁起の悪い光景だが、何事?
「真冬じゃないか、どうしたの」
「夫が……死んでしまったのです」
真冬は急に声をかけられても特に驚いた様子は無い。涙の代わりに
周囲にみぞれを降らせている。葉桜の下にみぞれが降り積もり、
謎な一角を作り上げている。
そんな馬鹿な。
おいらと同じ事を考えたのか、飄は苦笑いを浮かべた。
「僕たちに、自然死はありえないでしょう?」
「でも目を覚まさないんです……!」
わっとみぞれを降らせる。今年の春がもよもよと動き出した。もよもよ、もよもよ。
「……あなた!」
「ふぁあーあ、よく寝た……ってあれ、ここどこだ?」
真冬は一声叫ぶ。冷たい空気が暖かな空気をしっかりと抱き寄せた。
春はこちらに気付いたらしく、恥ずかしげにピンクに染まった。
「そそっかしいなぁ。一週間に一度は同じ事を繰り返すんだぜ」
「……ごめんなさい……」
真冬はわあっと白くなる。
「いいけど。あのな、いつも言ってるだろ。春は良く寝るんだって」
今年の春は優しく言い聞かせながら、葉桜の下を真冬と梅と共に帰って行った。
「毎週あんな事やってるのか……」
飄は感心したような、呆れたような声を出す。おいらはうそぶいた。
「家族ってのはマイ行事があるもんなんだよぉ」