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女郎花(おみなえし)

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 蜉蝣が儚い生命の時間を精一杯謳歌するが如く、行灯の明かりに淡い影が浮かぶ。
「ああっ、与作さん・・・・・・」
「お、お里・・・・・・」
 与作とお里の、絡め合う手足の力が次第に強くなる。お里は与作を強く求め、与作もまたお里を強く求めた。
 お互いに生まれたままの姿になった男女が愛し合う姿は、まるで何かに取り憑かれたようであった。
 生命を紡ぐこの行為も、今の与作とお里にはその本来の意味を為さない。今の二人を支配するもの。それはすべてを忘れさせる愛の強さと、快楽に他ならない。
 お里は女郎になって初めて快楽を知った。与作も初めて知った女体の心地良さに酔いしれている。
 こうして愛の行為は夜が白むまで続いた。

 店を出る前に与作が赤い糸をお里に渡す。与作も同じ糸を持っている。与作はそれを小指に巻くと、店を後にした。

 与作が帰った昼過ぎ。お里は台所にあった包丁で、己が胸を突いて自害した。その小指には与作から渡された、あの赤い糸が巻かれていた。
「まったく、ロクに客も取りゃしねぇ上に、畳まで汚しやがって・・・・・・」
 人相の悪い、鶴屋の主人が吐き捨てるように文句を言っている。
 お里の遺体はすぐ浅草界隈の非人に引き渡された。

 非人とは江戸幕府の身分制度の中で、士農工商より更に低い身分で、言われなき差別を受けていた者たちである。その仕事は処刑の執行や屍の処理などが主であった。幕府は人の忌み嫌う仕事を彼らに与え、更に身分を低くすることで農民を始めとする庶民の鬱憤を、差別という形で彼らに向けさせていたのである。

 非人が大八車にお里の遺体を乗せて歩く。すると浅草でもう一台の大八車と出会った。
「なんでぇ、そっちもオロクけぇ・・・・・・」
「ああ、下馬将軍様に直訴した百姓だ・・・・・・」
 大八車の筵を退ける合流した非人。するとそこには、直訴状を手にした与作の遺体があった。直訴状が酒井雅楽頭に取り上げられることはなかったのである。その小指にはしっかりと赤い糸が結ばれていた。
「ちなみに、こっちは自害した女郎だ・・・・・・」
 お里を運んできた非人も筵を退ける。
「二人とも若ぇのに、もってぇねぇよ・・・・・・」
「ちょうどいい。一緒に埋めるか・・・・・・」