小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

女郎花(おみなえし)

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
 宵闇が迫ると、江戸随一の遊郭、吉原に明かりが灯る。女郎屋の店先からは男を誘う、明るい声が響き渡る。
「お兄さん、遊んでおいきよ」
 そんな女郎屋のひとつ、鶴屋からも同じように男を誘う声が響いていた。
 だが、その座敷の奥で呼び声も掛けずに、俯いている少女がいた。年の頃は十七くらいか。男を誘うわけでもなく、ただ下唇を噛んで俯いている。
「ちょいと、お里! そんなシケた面なんかしてたら、お客なんか取れやしないよ。あんたも家のために、自分で納得して身売りされてきたんじゃないか。しっかり10両分は稼いでもらわなきゃ困るよ!」
 顔を覗かせた遣り手の婆が叱責する。この少女の名をお里といった。

 お里はもともと、さる地方の百姓の娘であったが、家の牛が死に、人買いに売られたのだった。それから女衒に引き渡されたお里は、「この娘は宿場の飯盛女にゃもったいねぇ」という女衒の見立てで、こうして吉原の鶴屋に売られたのだ。
 お里には百姓の与作という将来を誓った男もいた。しかし、それの夢も泡のごとく消えてしまったのである。10両という大金を百姓が手にすることは、まず不可能なことであった。

 お里は遣り手の婆に小突かれて店の前へ出た。そこでお里は信じられない人物を見たのである。
「・・・・・・!!」
 お里は目を丸くして口まで出かかった言葉を飲み込む。何と、そこには、あの与作の姿があったのである。
 与作は周囲をキョロキョロと見回していた。そしてついにお里と目が合う。
「お里・・・・・・!」
 お里は目を伏せた。与作がこんなところにいるのが信じられなかったこともある。しかしそれ以上に、こんな女郎にまでなった己の姿を与作に見られたことを恥じたのだ。
 しかし与作は店の中へと入ってきた。そしてお里を名指ししたのである。
 遣り手の婆は商売っ気たっぷりの愛想笑いをしながら、与作を床の間へ案内した。そしてお里には厳しい目を向ける。
「いいかい。しっかりおやりよ。客を怒らせたりしたら、お仕置きだからね」

 お里は俯いたまま、与作が待つ床の間へ入った。すると、すぐさま与作が駆け寄る。
「お里・・・・・・、どんなに会いたかったことか・・・・・・」
 しかしお里は目を逸らして呟いた。
「どうして与作さんがこんなところへ来たのですか?