【無幻真天楼 第十二回】ココロのうた
自分と同じくらいの大きさの手で撫でられている頭に京助が顔を上げると【三歩先】にいた【緊那羅】がすぐ側にいた
「大きくなったな…もう…コケて怪我しても自分で絆創膏…貼れるな…?」
自分より若干小さな背丈の【緊那羅】は目を細めて笑っていた
「み…」
「違うだろ? …俺はもういないんだ…お前にとってこの体はもう俺じゃないんだろう?」
ワシワシと思い切り頭を撫で回しながら【緊那羅】が苦笑いで京助が発しようとした言葉を止めた
「…呼んでやんな…名前」
「…っ…」
グシャグシャになった京助の頭を仕上げとばかりに【緊那羅】がポンポンと軽く叩いて目を細めた
「…男は泣かないもんだぞ…? …ブッサイク」
濡れた京助の頬をみょーんと左右に引張って【緊那羅】が笑う
「ごめ…ごめん…ごめ…ん…ッ…」
「うっわ; マジでブッサイク;」
引張られたままで泣く京助を見て【緊那羅】が苦笑いを浮かべそのまま京助を抱きしめた
「俺が聞きたいのは…ごめんじゃないぞ京助…さっきの言葉…もう一回聞きたい」
「…っ…ふ…」
【緊那羅】の肩で京助がぎゅっと目を閉じ、そして深く息を吐き
「…ありがとう…」
鼻にかかった声で綴った五文字の言の葉
「どういたしまして」
前の時のように強風は起きなかった
ただ初夏の夕暮れの風が何事もなかったかのように庭や御神木の葉を揺らして意識がない【緊那羅】の体を強く抱きしめたまま小さな子供のように泣く京助の声を空へと運んでいった
作品名:【無幻真天楼 第十二回】ココロのうた 作家名:島原あゆむ