【無幻真天楼 第十二回】ココロのうた
「香奈!! 香奈ッ!!! 離して香奈ぁッ!!」
【誰か】に向かって本間の名前を叫び続け駆け出そうとした阿部の体を制多迦が抱きかか
えた
「…みがいってどうなるの?」
そして静かに言い【誰か】を真っ直ぐ見据えた
【誰か】の腕の中には意識がないと思われるい本間が頭を垂れたまま抱かれていた
「なん…で…」
坂田が声を震わせて問いかけると【誰か】がまた一歩足を進め坂田がまた一歩後退する
「どうして!? ねぇどうして香奈を…なんで!? なんでなの柴田さんッ!!!」
左頬に二つ並んだほくろ
紺に近いスーツそして
「…なんで…なのかな」
いつもと変わらない話し方と声はまちがいなく柴田だった
「…彼女を離しなよ…」
「できません」
矜羯羅の言葉を柴田がきっぱり断った
「…しり…あい?;」
今知り合いました、つい先日知り合いましたというにはあまりにもおかしい会話のやり取りを聞いて中島が聞く
「そう…なる…かな…お久しぶりです…矜羯羅様、制多迦様」
一瞬トボケた顔をした柴田が制多迦と矜羯羅に向かって軽く頭を下げる
「…清浄(しょうじょう)…」
矜羯羅が聞いたことのない名前を口にすると瞬き一瞬ソコにいたのはスーツ姿の柴田ではなく摩訶不思議な服装に身を包んだ柴田だった
「清浄!!? な…んでお前がこっちにいるナリか!! お前は…!!!」
「…しょう…じょ…う…」
慧光の怒鳴り声よりその場に響いたのは緊那羅の声
ヒューヒューと喉から息を漏らしながらゆらりと緊那羅が立ち上がった
「きん…」
支えていた鳥倶婆迦が心配そうに緊那羅を見上げそして何かにおびえるように緊那羅から離れた
「タイミング…悪かったのか良かったのか…だの…」
阿修羅が緊那羅と清浄を見て言った
「タイミング…って何?;」
南が阿修羅にこそっと聞く
「あんな…ヤツ…清浄はな…」
「何騒い…で…」
阿部にくらった回し蹴りの痛みからようやく回復したっぽい京助が遅れてやってきた
「清浄は昔…竜のボンをな…ソレを守って昔の緊那羅が死んだんきに…」
本当にタイミングがいいのか悪いのか阿修羅が言った言葉がバッチリ京助に聞こえた
「…あ…京助…」
やっと存在に気づいた南が京助の名前を口にすると緊那羅が顔を上げた
その目は何かを見ているようで何も写していなくでも真っ直ぐ京助の方向を向いていた
「お前は…【上】につくの?」
いつの間にやら摩訶不思議服になっていた矜羯羅が清浄に聞く
「いえ…そうじゃない…と思いますけど…俺は俺自身…俺に守りたいもののため…守りたいものにつきます…そのために…ッ!!!?」
清浄の話の最中いきなり目分けていられないほどの強風が巻き起こった
「迦楼羅!?」
「違う!! ワシではないッ!!; なんでもかんでもワシにするなたわけッ!!!;」
強風=迦楼羅というイメージが定着しているのか鳥倶婆迦が迦楼羅に言うと迦楼羅が怒鳴り返した
「これは…ッ…」
「ギャー!!; 目痛い痛いー!!;」
突っ立ったままだった坂田を南と中島が支え強風に耐える
「竜のボン」
坂田と同じように突っ立ったままだった京助を支えながら阿修羅が声をかけた
「まだ…始まったばっかりなんよ…しっかりせ?」
作品名:【無幻真天楼 第十二回】ココロのうた 作家名:島原あゆむ