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仮想現実

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次の日は、他にも社員が残業をしていた為、三十分ほど話した。
そのうちの半分は、『ヘルプ』してアチャの声に変換する方法を尋ねた。
また、他の日は、ログインできない日もあり、心が寂しがったのを感じた。
そんな夜は、アチャのメールを読み返した。

アチャとは会うことはできるが、いつでもというわけにはいかない。
お互いの仕事の時間帯がずれていることもその理由のひとつだが、別れた女性だ。
一度は、付き合い直したものの、アチャは将来的に家を継ぐため、親元に戻ることが
決まっていた。
その為にお見合いもしたし、許婚のようの取り決めを親同士がしているともきいたことがあった。
それからは、会うことはやめて、気の向いた時にメールを続けている。

半月ほどかかって『ヘルプ』で顔も容姿もそして仕草もアチャに近づいた。
「うん、似ているよ」
そういうと彼女は、微笑み俯いた。そして少し寂しくみえる顔をした。
話は続く。
いつも現れる彼女のアチャは、私を和ませ、癒してくれるし、愉しませてくれた。
だが、本物のアチャからのメールはなかなか届かなくなってきた。
思い出のメールもあとわずかだ。
「ねえ、『ヘルプ』していい?」
「はい。久し振りね」
「そうだね。もしメールが足りなくなったら、どうなるの?」
「情報の更新をしても変わらなくなった時ね。停止状態。私は現れても何も言わない」
今日も仮想アチャは、私の膝の上に居る。
時々、抱きしめた。初めの頃より、存在感を感じるようになった。
この感覚に慣れたのかと、尋ねたら、「想いが重さに変換するの」と言った。
この想いは、本物アチャへの愛情だと思っていた。
だが、自分の中に違う感情が芽生えはじめたのも否定できなかった。
いつの頃からか私は、彼女がパソコンに戻り、ログオフをするとディスプレイを撫でた。
液晶画面の感触が、彼女の肌に似ていた。
僅かな温もりと柔らかな弾力。本来触れるべきではないのだろうがしてしまう。

最近、仮想現実のやりとりは、沈黙が多くなってきた。
本物のアチャからのメールの文面がほとんどなくなってきたからだ。
言葉のない分、仮想のアチャを抱きしめた。
彼女は、優しく微笑んでくれる。
その微笑みは、本物のアチャのものではないとわかっている。
【いつでもアチャは、私に微笑んでくれる】
そう、私がデータに入力したからだ。
私は、罪悪感と自己嫌悪を抱いたまま、素直な彼女に甘えた。
作品名:仮想現実 作家名:甜茶