スリリングな夢
3
ところで俺はこんな生活をもう二十日余りも送っている。
目覚める度に訪れるスリリングなシチュエーション、正義の味方になる時もあれば、大泥棒になって警察の鼻を明かす事も……。
もちろんこれが夢だという事は承知の上だ。現実にこんな世界が有るわけが無い。
だが、その現実の世界と言う奴を俺は忘れかけている。
たぶん、アタッシュケースに原価一本五百円のボールペンを入れて、気の弱そうな奴の家を訪ねては五千円で売りつける。
そう、押し売りを生業としていた俺が現実の俺なのだろう。
そしてそのボールペンを弄びながら道を渡るとき、猛スピードで黒い高級車が突っ込んできて、この世界に飛ばされてきたのだ。
案外、本当の俺は病院の集中治療室なんて所で医療器械に助けられながら、この素晴らしい夢を見ているのかも知れない……。