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藤森 シン
藤森 シン
novelistID. 36784
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仏葬花

INDEX|29ページ/40ページ|

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「そこで何があった? いや、大体把握出来てる」
「では、何も訊くことは、ないのでは?」
やっと出た声は掠れていた。
「まともに覚えていて、話が出来て、生き残っているのがなかなか居ないんだ」
レンジェは口端を上げる。「若いやつばかりやられたからな」
「あなたが何を見たのか、知っているのか。私も知りたいのです」
リーンが一歩出て言った。重く顔を動かす。二人は全身で返事を待っている。
「何も知りません」膝の上に乗せた手が濡れている。「子供だったし、ご存じの通り、家は村の端にありましたし」
「では、良いことを教えよう」レンジェは再び歩き始める。「フリークスはなぜ若い頭脳ばかり狙ったのか」
若い。頭脳ばかり。それだけでも初耳だったが彼は更に続ける。
「そもそも、フリークスが人間の頭脳を欲しがる、というのが異常だ。答えは簡単。そいつは、人口のフリークス。あの山の中の研究所で造られた」
「え?」
世界のどこかの話だと思ったが違ったようだ。木々の向こうの白い建物を、脳が勝手に記憶から引き出す。子供は近づかない。あの場所。
あそこで。
フリークスが?
「もちろん、今は閉鎖されてるし研究自体も凍結されたんだっけか」
リーンと顔を見合わせている。
「で、ここまでは前振りだ。つまりは俺の趣味? 本題はここから」
レンジェが明るく言い放った。リーンは微動だにしない。
「お前、村外れの林の向こうに住んでた奴と仲良かったよな。黒髪の男。名前は、忘れた」
「老化って本当、罪ですよね」
「おい違う。知らない、聞いてないだけだ」
「それは忘れたとは言いませんよ」
リーンは呆れて頭を振っている。彼が続けた。
「その方の行方を知りたいのですよ。どこに行くとか聞きませんでした? 覚えていませんよねえ。時間の経過は本当、罪です。恐ろしい」
「お前が言うと頭にくるな・・・」
混乱していても記憶は引き出せた。当時よく話したことなので容易に思い出せる。
「いえ、わかりません。いなくなっていたことにある日気が付いた、ということは覚えています。最後に見掛けた日もよく覚えていませんでした。毎日会いに行っていたわけではなかったし・・・」
「ま、そうだよな。お前はオウカとべったりだったし」
思った以上にその名前に強く反応した。簡単に吐き出せるレンジェを、直視出来なかった。
「俺は結構覚えているけどな。お前のこともぼんやり」
それでもレンジェのことは思い出せない。彼は年上だ。下の学年は、オウカが居たので多少知っていた。上の学年の者とは、交流がほとんどなく当時でもわからなかった。
窓の外は雲がほとんどなく、とても晴れている。その所為で室内はとても暗い。
眩しすぎて、シヨウはこういう日に外に出るのを憂鬱とさえ思ってしまう。
晴れている日のほうが死にたくなる。



いわゆる、逃げてきたというやつだ。
「神ってなんだと思う?」
問われた二人はどう答えたものか、目で話し合っていた。ノス・フォールン同士ではない。これがこの二人の、いつもの姿勢だと気付くにはそう時間はかからなかった。
「何もしてくれない、姿も見えない。それはいないのと同じ」
「個人に何かをしてくれるとか、感情がある時点でどうかしていると思うけど」
「いると思う者にだけ存在する、とても曖昧な存在」
「この星そのもの。ここに住んでいる者は、絶対に逆らえないから・・・」
言っている途中で、二人からの視線に気付く。耐えられないのか、後半は消え入る声になってしまう。
「いいね、それ。考え付かなかった」
もう一人が笑顔で応えると、伝染したように笑顔になり、二人は笑い合う。
この村に来てまだそんなに経っていないが、この二人は近所に住んでいるということでよく話した。主に学校が終わってから暗くなるまで。この年齢の子供は本当に頭が良い。成長途中が一番良いといえる。色々、あらゆる方面の話をした。その所為で「先生」と呼ばれた。これにはちょっと笑えた。でも、その称号を受けているから間違いではない。

「お願い! 先生助けて」
暗い金髪の子が走って助けを求めてきた。
「どうしよう。死んじゃう」
「どうしたの?」
室内の鉢植えが萎びていたのに気が付いて、見ている最中だった。何かに夢中になるとその他を切り捨ててしまう癖。切り捨てるというより存在を忘れてしまう。困っているが、夢中になるとその癖すら忘れてしまう。
「お、お願い、とにかく来て! こっち!!」
少し離れた林に、明るい金髪のほうがいた。もう一つ、地面に横たわる物体も見えた。一見して、鹿だと思ったが違う。
「大丈夫? どうしたの?」
暗い金髪の子が駆け寄って服を掴み、ぶるぶると震えて明るい金髪の子の顔を見ている。
「心配かけてすみません。大丈夫です」
「これは?」
「さあ?」
暗い金髪の子を撫でながらさらりと返してくる。
「さ、さっき、突然走って来たと思ったら馬乗りになって」
「でももう死期だったみたい。すぐ死んでしまったよ」
「先生、どこに行ってもこんな感じだったの?」
「どうだろう・・・あと何年かすれば珍しくなくなると思う。だからどこに居ても同じかもしれない」
当時はフリークスの存在は知られていても、目撃数は多くなかった。その研究にはまだ疎かったため、それ以上は言及しなかった。まさかあそこで実験していたことも知らなかった。

ある日、明るい金髪の子が一人で来た。それは結構珍しいことだった。
「あまり、あの子に近づかないでくださいね?」
「なぜ、そんなことを言うのかな」
「わざわざ一人で来たんです。察してください。具体的に言うと、外の世界の話をあまりするなって類です。この村は色々縛られていて窮屈ですから」
「出て行ってしまうと?」
頷かないのを肯定とみなす。
「別にいいと思うけど? 今知らなくとも、きっと知るからね。それが早いか遅いか。あ、そうか」
そう言って気が付く。ゆっくり、目を合わせる。
運命だとは思わない。きっとこれは、仕組まれている。
「なるほど。君自身の都合というわけ」
やはり肯定も否定もしない。でもこれは明らかに肯定だとわかる。

そうか、見付けてしまったのか。

強いノス・フォールンである以外に、彼は失敗作となった。
彼は長生き出来ないだろう。
今思えばもったいないことをしたと思うが、もう過ぎたことはしょうがない。二人のその後を見ることなく、他に興味が出来た関係であの村を出てしまった。それから二年経たない内にあの村は終わった。知ったのは更に数年後。痕跡も生存者も調べるのが面倒になる程度には過ぎていた。でも一つだけ、明確にわかっていたことがある。
彼は死んだ。



いつもの木陰の石のベンチだった。
「この程度の規律を守れないのか、この程度だから守らないのか。レヴィネクスに訊かれたことがあったけど、どちらだろう。階段の左右とか、昔だったら信号無視とか小さな違反ね。やはり、場合による、かな」
「どちらかというと許されるか許されないかじゃないかな。他者への影響が小規模だったら守らない場合もある、みたいな。そうはいっても違反は違反なんだけど。そのレヴィだけど、シヨウには人間に見えてたんだ」
「ん?」
作品名:仏葬花 作家名:藤森 シン