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藤森 シン
藤森 シン
novelistID. 36784
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仏葬花

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「説得を待っているんじゃないかなあ。ほら、自分は誰にも必要とされてないとか話す相手がいないとか一人で抱えすぎている状態。案外、話すだけ話したらすっきりしたってけろりと帰って行くかもしれないよ」
「そうかなあ」
「ちょっと言ってみたら」


公園の樹の下だった。その樹は空から落ちてきた災厄を飲み込んだという。そして樹は枯れつつある。厄を飲み込んで自分が犠牲になっているらしい。なんとも綺麗な自己犠牲の伝説が語り継がれている。
シヨウには単なる寿命にしか見えない。
彼女が見ていた樹をセリエも見上げる。
「樹とか動物っていいと思わない? 何も考えなくてもいい」
「毎日が生きるそのものですね。人は社会で生きる方法を探して生きている。人の毎日やっていることなんて、生命維持にほとんど関係がない」
「ごみを生産している生物。どう? 誰か見付かった?」
シヨウは慌てて首を振って答える。けれどセリエは表情を変えなかった。
「さすがに、知り合いがいないのはどうしようもないです」
セリエのほうも進展はないようだ。
それに、まだ、生きている。
「だよねえ、どうしようか・・・」
「あの、もしそうなら、やめてしまうっていうのも・・・あると思うんですけれど・・・。ほら、理由を話せば多少、楽にはなります。現状は何も変わらないけれど、自分の受け止め方次第で前向きに・・・」
息を吐いた。そこまで言って、やめた。
セリエの表情を。
ああ、やはり・・・。
セリエという人物をよくは知らない。そういう話以外の話をしたことがない。
けれど、恐らく。
「あー・・・なんだ、説得ってやつ?」セリエは笑っている。「へえ、面白いね。説得して、君に何の利益がある? そもそも君に関係ある? というか単に見ていられないだけだろう。止めるだけ止めて、その後の生活を助けてくれない奴らが、何を言っても無駄だというのに」
シヨウは黙っている。その通り、まったくその通り。
猛烈な怒りに似た苛立ちを抑えていた。彼に対してではない。
自分に対して。次にジイドに会ったときが楽しみだ。
「ええ、そうです。本当に。ああ、もう・・・」
「彼氏になんか言われたとか? それとも、可哀想だと皆で同情してみたわけだ。でもしているだけ、だよね?」
「すみません、出過ぎたことを言いました。大丈夫です。私がきちんと殺して差し上げます」
おかしな言い方だなと思いながら言った。
「うん、そうしてもらわないとこっちが困るんだよ。君も、働いているならわかると思うけど、今の時代、ただ息を吸っているだけで金が減っていくんだ。住むにも食べるにも何かが必要なんだよ。隣人愛だとか愛する人がいればやっていけるとか、一昔以上前の状態じゃないのだから、そんなんでは今は生きていけない。なんて時代に生まれたんだ、ほんと、まったく・・・」

「どうだった? うまくいった?」
ジイドはシヨウの仕事場の支社に来ていた。もちろん中ではなく外で待っていたが、シヨウが支社の中に入るとごく自然についてきた。誰も咎めない。
ロビィの椅子に座る。彼は来客用の一人掛けではない椅子に座った。
「思ったとおりの結果になってとても嬉しい」
「本当? 良かった」
「逆効果テキメンでしたよ」
「逆、効果? 逆?」
彼女は、たった今、自分で言ったテキメンという意味を考えていた。
適応面? 快適面倒? 適用面子?
あ、覿面か・・・。
「あ・・・なんか怒ってる?」
怒っていますと答える人間がいるのだろうか。
気が付くと、手の内にあったペンが折れていた。
「折れたし」
ごみ箱に放った。弧を描いて飛んだそれはごみ箱の端にぶつかり、床に落ちた。ジイドをなんとなく見た。顔をしかめて彼女を見ている。
見られながら彼女はすでに動いていた。床に落ちたペンを拾う。
「ちょっと、もったいない。どうしてすぐ捨てるかな。再利用とか修理してみようと思わない? というかそれ、結構愛用してる感じに見えたけど」
「いや、もったいないよ。でももう使えないし。使えないものをいつまでも持っているほど暇じゃない」
「暇はなんか違う」ジイドは笑う。
「余裕はない。場所もない」
「場所? なんで場所?」
見ると本当に疑問に思っているようだった。
場所がわからないとは。彼はきっととても裕福で余裕があるのだろう。
とにかく。
「これに関してはもう口出ししないでください。あなたには関係ないでしょう」
彼の反応は見ない。立ち上がる。
「あれ、どこ行くの」
「仕事です」


出勤するシヨウを見る影がある。
「俺にはそれなりに歳をとっているように見えたが?」
三つ編みの男が言う。彼の薄い色素の目が煌めく。
「そして貴方のことは覚えていないでしょうね。あの反応を見ると」
こちらは髪は黒い。目の色も服も暗色だ。
「実は俺もよく覚えていない。目立ってなかったし」
笑った黒ずくめの男に釘を刺しておく。
「お前、変に仕掛けたりするなよ」
「あ、いいのですか?」
「いやだからだめだって」
「でもあちらから仕掛けてくれば、問題ないでしょう」
相変わらずの彼なりの理論に苦笑も浮かばない。
「話訊くまでは殺したりするなよ」
「私だって温和に進めたいですよ。でもシヨウさんがどうしても剣でお話ししたいと言うのなら、喜んでお相手して差し上げます。むしろそちらが良いのですが。話を訊いたあとならばいいってことですよね?」
始終笑顔を絶やさない。
「ま、殺す前に俺を呼べよ。訊きたいことは山ほどあるんだからな。なんだ、お前興味があるのか?」
「人間誰しも不老不死には興味があると思いますよ? あ、不死ではありませんか。星治界のお偉い様方は大変興味があるようですが」
「想いの力だけで不老になったら恐いからな・・・ノス・フォールンとの交配の副産物か、なんにせよノスの脳のほうが終わったらやってみるかな・・・」
「あなたの趣味にも呆れたものです。その熱心さを仕事に回してください」
「俺はいつでも仕事熱心だぞ」
「熱心すぎるのですよ、だめな方向に」
「趣味の為に仕事をするって、俺くらいの歳なら普通だろ」


シヨウは街の郊外まで歩いてきた。
「どこまでついてくるのですか」
「断るまで」
露骨に不機嫌な顔で見ても、あちらは前髪で隠れている。
本当に不機嫌になりそうだった。
今日は畑を耕す手伝い。この頃割と多い仕事だ。田舎出身なので土に抵抗はない。しかし作業には不慣れで、しばしば口出しをされる。自身の記憶や見様見真似ではいかないという場面があった。
「ええっ 農家の手伝い!? すっごい!!」
馬鹿にしているのか、と見てみれば本当にそう思っているようだった。
「ね、ね、俺もやってみたい。良い? ついて行っても?」
「いや、仕事だし」
まさかこんなに食い付きが良いとは思わなかったので、どう反応すればいいか困った。
「じゃあさ、通りすがりの知り合いってことにして声かけるから」
「もう、勝手にすれば」
そうまでしてやってみたいのかと問いたくなった。この街の郊外には畑がたくさん広がっているのに。
「あ」
「あの人・・・」
三つ編みの男に、影のように佇んでいた男だ。髪も服も黒く本当の影のよう。
作品名:仏葬花 作家名:藤森 シン