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藤森 シン
藤森 シン
novelistID. 36784
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仏葬花

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「それよりも、立会人を募らなくてはいけない。でも私には知り合いがいないんだ。早速困っているんだけれど、君のほうでどうにかならない? 生活費は大丈夫だから」
「仕事での知り合いとか、学校の友達とか、だめなのですか?」
「うーん、いないこともないけど・・・。仕事も今はしていないから、誰とも連絡つかないんだ」
「私も、ここの出身ではないので知り合いとかいないですよ」
「会社の人に頼むっていうのは? あ、頼みにくいか。だよねえ」
男は動き回る。せわしない。
「ユーメディカ社ってどうだったっけ、そちら方面」
「ユーメディカ?」
「少し前から色んな事業に手を出していたよね? 立会人派遣なんて、ないか」
「いえ、やっていないと思います。脳研究が主流だと思っていたのですが」
「数年前に島を買って研究所建てたって話題あったね」
「そこに提供するのですか?」
「提供? 頭脳を? いや、しない。臓器も何も。ユーメディカが無理なら民間の企業に頼むか・・・」
「フリークスの駆除をされている方でも、大丈夫かもしれませんよ」
「え、そうなの?」
「人間は斬ったことはないと思いますが。さすがに・・・」
「君は? ないの?」
思わず男を見た。あまりに自然な流れで訊いてくる。
「死にたいと思っている人間を斬ったことはないですよ」
「あ、私はセリエだ」
「えっと、シヨウと申します・・・」
「どうしたものかなあ」
頷いて、また歩き回る。
シヨウは花壇の縁に座った。縁が腰の位置にあったので、ほとんど膝は折っていない。それでも、足への負担はかなり軽減した。手持ち無沙汰だったので腕は組んだ。やや下向きへの視線。三メートルほど先の地面を眺めていた。視界の端をセリエの足が行ったり来たりする。
そもそもシヨウは、今すぐにでもこの男を斬っても構わなかった。死にたいと思っている人間を殺すことに割と抵抗はない。けれど、世間の目は違う。命は尊い、絶対のものだと認識している。どんな理由があろうと人の命を絶つ行為を認めない。
殺してと言われたから殺しました、は通用しない。
死んだ人間はいいかもしれないが、残された人はどうなる。手を下した自分はどうなる。シヨウはまだ、社会という輪の中に居ようと思っていた。
「立会人が集まらないのはしょうがないので、この際、別の人に頼むという手もありますから、今日のところは休んで、落ち着いて考えてみたらいかがですか?」
セリエは指を差して何度も頷く。
「なるほど。うん、そうだな。疲れたし、帰ろうか・・・。それにしても帰って寝たいと考えるなんて変だなあ・・・人間は本当におかしい」
「明日はとりあえず生きるってことで、いいんでないですか」


それからシヨウは、顔を覚えている仕事仲間にそれとなく聞いてみた。しかし誰も頷いてはくれなかった。セリエの名前は出していない。全くの他人でも、自分の近くで人が死ぬのを見たくない、ということか。
セリエにはやはり自分でどうにかしてもらうしかない、と考え始めていた。
自分の胸に刃物を突き立てる。その様を想像する。痛みを思い浮かべる。今までのどんな痛みにも比べ物にならないだろう。それくらいしかわからない。彼女はいつも与える側だった。
午後の陽光に目を細める。膝に陽が落ちてそこだけ暖かい。
その日は仕事がなく、出掛ける理由も用事もないので支社に居た。民家だと居間になる。そこの窓際に配置されたソファに座って本を読んでいた。
窓の外、視界の端を通りすぎる影があった。数秒遅れて戸が開く音。シヨウは顔を上げる。彼女の座るソファの前までまっすぐ来た。多少、息が上がっている。
「久しぶり。これ・・・、そこで渡してくれって頼まれた」
封筒だ。折っていない紙が入っていると思われる大きさ。
シヨウは立ち上がってそれを受け取った。
「ありがとうございます。三週間は、久しぶり?」
懐かしい、と感じた。どうしてこの街にいるかという疑問は湧かない。あの赤い街にはこの街を通過しないと行くことはできない。
封筒を見る。赤い花の紋が押されている。顔を上げると、ジイドはいつになく神妙な表情でシヨウを見ていた。しかし、彼女と視線が合うとすぐに逸らした。
「あの・・・何をしてるの?」
「何って・・・何」
「だから、その、介錯みたいな・・・。立会人を募ってるって聞いたんだけど・・・」
露骨な表現で訊くというへまはしない。どこからどのように聞いたのか、そちらを聞いてみたかったがやめる。悪い噂というのは広がるものだ。尋ねた人のなかに彼の知り合いがいてもおかしくない。
「本当?」
「そんなわけないでしょう」
「本当に本当? 嘘じゃない?」
「あなたに本当のことを言わないといけない? 嘘をついてはいけない?」
「じゃあやっぱり、そうなんだ?」
「これ、届けた人、どんな人でした?」
「黒ずくめで、髪が黒かったね・・・」
シヨウはジイドから視線を外す。
「そもそも人が自殺を考えるのって、そんなに不思議とは思わないな。考えたことのない人間はいないと思うんですよ。そうじゃないですか?」
「そう考える君のほうがよっぽど不思議だけど」
「では、どうして生きたい? この、死んでいないだけの状態をなぜ維持したい?」彼女は一人でしゃべっている。「いや、それはわかる、逆はできないから。でも、うーん。そこまで特別なこと? 勝手に生まれて生きているだけなのに」
「相変わらずだなあ。いつもそうやって一人議論してるの? 一人だから議論じゃないか。単なる独り言?」
自分の結論に小さく吹き出している。
「寿命が短いノス・フォールンの意見が聞きたいな」
対面してシヨウは言った。顎に手を添えている。
「やめさせようよ。その人、どうして死にたいと思ってるの?」
「さあ。知らない」
「知・・・、理由も聞かないで・・・、ちょっと待って。どうかしてる。後悔するよ」
「死んだら後悔できない。多分」
「違う、シヨウがだって。人を殺すのってものすごいことなんだよ。一つの命が無くなる。絶対に元に戻らない。親御さんとか絶対悲しむ」
「二十歳を超えた人間が出した決断を、親がまだ口出すのか。それはどんな感じ?」
「論点がずれてる」
「人を殺す方法を考えているよりはよっぽど健全だと思うけど・・・」
「どうしてそう、すぐに死ぬとか自殺とか考えるのかなあ」
「それが怖いから、じゃないですか? 怖いからこそ対処しようと考えませんか、あらゆる想定を」
「それは、わかる。けれど、いつか誰もが絶対来ることなんだから、考えたってしょうがない。その時が来れば嫌でも覚悟してしまう。諦めというか・・・」
「考えなくても絶対来るのなら嫌だけど考える、私ならそうしますけど。覚悟なんて、普通に生きている人は出来るんですか? お年寄りはあんなに生きているのに、殺人、窃盗までしてまだ生きたいみたいですよ。凄い」
「それ、ちょっと言い過ぎじゃない? 君と話してると話が飛ぶ・・・なんだっけ。だから今死ななくてもいいじゃんって話」
「そういう話をしていたの?」
作品名:仏葬花 作家名:藤森 シン