アイラブ桐生 第三章 36~38
作ってもらったばかりの酎杯を、奪い取るように手に取ると、
岡部くんは、それをまた一気に飲み干してしまいます。
「お代わり』と元気よく、悦子ママの前にドンとグラスを置きました。
「まったく、あいつらときたら
荷物が9時についていれば安心ができるからという理由だけで、
なんでもかんでも、9時に必着と書きやがる。
そのために、俺たちがどのくらい苦労し抜いて走っているか、
知ってるかってんだ!
荷物をおろす時間待ちで3時間も待たせるくらいなら
最初から12時着と書いておけばいいんだよ。
なんのため9時必着だ。」
「荷物を積んだら、
指定の時間までに届けるのが俺たちの仕事だ。
着いた先で2時間待たされようが、3時間待たされようが、
それも仕事のうちだ。
まぁそう思ってあきらめろ。
まったくお前は、それくらいのことで、
すぐに頭にきてカッカとしすぎる。
だからいつでも呑みすぎるんだ、この馬鹿野郎」
「どうせ馬鹿ですょ。
馬鹿でなけりゃ勤まらねぇよ、運転手なんて仕事は!」
「解っているじゃぁねえか。
わかっているんなら
もうそんなにカッカとするんじゃねえ、この単細胞」
岡部と呼ばれた若い方の運転手くんは、何を言っても
白髪交じりの角刈りに、頭ごなしに叱られているばかりです。
言いたい放題の悪態をついて、それで満足をしたのか、
ちよっと目を離したすきにもう、
岡部は、いびきをかいて爆睡に落ちていってしまいました。
もう一杯いこうやと、白髪交じりの角刈りが
熱燗の徳利を持ちあげます。
作品名:アイラブ桐生 第三章 36~38 作家名:落合順平