アイラブ桐生 第三章 36~38
鹿児島県最大の繁華街として知られる天文館は、
街並みを貫く大きな通りとともに、アーケードに覆われ放射状に走る
たくさんの路地があることでも知られています。
アーケードの通りには、古くからの個人商店や
洋服やカフェなどの洒落たお店が肩を寄せ合うようにして立ち並んでいます。
あちこちにアーケード街が多いのは、桜島の降灰や、
真夏の強い日差しを避けるためです。
「天文館」という固有の地名は、どこにもありません。
商工業の多くの支店や商店街と歓楽街、そのすべてが集まる
一帯をのことを総称して天文館と呼んでいます。
古い町並みのひとつで、飲食店と飲み屋さんが特に多いという、
天文館の『文化通り』を歩いてみることにしました。
ここは露天で、通りにアーケードはありません。
こじんまりとしたお店も多く、どこかに遊郭を思わせるような、
古い木造の家屋なども混じっています。
故郷の桐生とよく似ていて、路地裏通りの歓楽街にも似た
雰囲気が漂っています。
打ち水がされて、引戸の前には盛り塩の置いてある
こざっぱりとした格子のお店が、すこし粋で気になりました。
店先に掲げられた青い暖簾には、白字で「またぎ」と書いてあります。
しかしお店の看板には、徳之島産地直送とも書いて有ります。
「またぎ」といえば普通に連想するのは、
東北地方における猟師たちです。
雪の深山を猟犬たちを引き連れて、銃を肩に熊を
撃ちにいく姿を連想してしまいます。
しかし徳之島といえばまったく正反対の、
南海の浮かぶ孤島です。
しかも看板のわきには、
「いのしし」と「いのぶた」の文字も躍っています。
南海の徳之島にも、「またぎ」やといのしし」がいるのでしょうか・・・
考えている暇も無く、好奇心にかられて、もう格子戸を開けていました。
珍しいものには、即反応をしてしまうタイプです。
作品名:アイラブ桐生 第三章 36~38 作家名:落合順平