アイラブ桐生 第三章 36~38
一年前に、まる一昼夜にわたって木の葉のように揺られた海も
今日の飛行機は、鹿児島空港までをわずか1時間足らずで
飛び越えてしまいました。
見上げながら出航した桜島を、今日は、機内から
見下ろしての帰路になりました。
遅い昼食を空港で済ませてから、すこし途方にく
れました。
旅の次のプランが曖昧すぎたためです・・・・
沖縄からの帰路は飛行機で鹿児島まで飛んで
あとは陸路をのんびりと戻り、めざすは京都・・・
そんな大雑把すぎる予定です。
鹿児島に一泊するのか、それともすぐに汽車に乗るのか、
それすらも決めていません。
まァ、急ぐ旅でもないだろう・・・・
思えば、2年前に家を出てから、東京の暮らしも、沖縄での滞在も、
常に周りには、いろんな繋がりと多くの人々が存在をしました。
知らない土地で知り合って、その日のうちの縁(えにし)が生まれ
いつのまにか当たり前のように一緒に暮らしはじめ、
関わりあってきました。
それが、鹿児島空港に降り立った瞬間からは、
まったくの一人ぽっちになってしまいました。
見知らぬ土地での、まったく初めての一人ぽっちです。
それは、この旅で初めて味わう、
孤独感でもありました。
・・・さぁて、どうする?
行きがけに、優子や恵美子たちと飲み明かした天文館まで
足を延ばして、一杯呑んでから、その先を考えることに決めました。
こういうところが適当で、実に大雑把で、かつ優柔不断です。
元来が、(お袋ゆずりともいえる)「なんとかなるだろう」
主義の生き方です。
*「天文館」の名前は、江戸時代に、
第25代薩摩藩主・島津重豪が、この界隈に天体観測や
暦を研究する施設の明時館、別名「天文館」を建設したことに
由来をしています。
明治期まではススキの生える寂しい場所でした。
大正の後半から昭和初期のかけて路面電車が開通し、同時に多くの
映画館や劇場などが開館をしました。
鹿児島各地から昼夜の別なく人々が押し寄せるようになり
まもなく周辺には、映画客を目当てにした飲み屋や赤線、食堂などが
自然発生的にあらわれました。
今日の商店街とともに、歓楽街の原型もその当時に
造りだされました。
作品名:アイラブ桐生 第三章 36~38 作家名:落合順平