アイラブ桐生 第三章 36~38
悦子さんと名乗るママさんが、
カウンター越しにビールを注ぎながら、解説をしてくれました。
「いますよ。
本土のいのししよりは、だいぶ小ぶりですが
ちゃんといます。」
またぎも、ちゃんといますと笑っています。
「みなさんは、誤解をしてます。
小さな島の徳之島にも、山はちゃんとあります。
それゃぁ、本土から見ればまことに小さなものですが・・」
一杯どうですかと勧めると大きいのでいいかしらと、
小ぶりのグラスを、ちょこんと持ち上げました。
機転がききそうで、なかなか楽しいママさんです。
いのししの肉質は小ぶりな分、よくしまって淡泊でした。
毎年罠を仕掛けて、いのししを捕えるそうです。
もちろん鉄砲で仕留めることもありますが、
年間に腕の良い猟師さんは30頭以上も捕るそうです。
捕えて肉にさばくだけではなく、島豚とかけあわせて「いのぶた」を
生産し始めたともいいます。
「旦那さまは、徳之島で猟師と漁師をしています」
と、嬉しそうに笑います。
「わたしのわがままで、こちらにお店をだしたんですが、
そろそろ亭主も歳なので、可哀想だから島に戻ろうかとも考えています。
お店の「山くじら」(いのししのことを九州ではこう呼びます)も、
お魚も、みんな亭主が、せっせとこちらへ送ってきます。
わたしも、単身赴任に疲れましたし、
そろそろ、潮時ですかねぇ~」
と、目を細めてまた笑っています。
その笑い方と笑顔が(年齢に似合わずに、)とてもチャーミングです。
もう一杯、いかがですか、とビール瓶を持ち上げたら
「そう? じゃあそろそろ本気で呑もうかしら!」
と、今度は大きなグラスを持ち上げました。
記念すべき本土上陸の最初の夜は、マタギのママとの愉快な出会いです。
しかし今夜はそれだけでは終わりません、ここからが
また別の出会いの夜になりました。
そのはなしは、また次回で詳しく・・・・
作品名:アイラブ桐生 第三章 36~38 作家名:落合順平