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アイラブ桐生 第三章 36~38

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 「ちゃんとダンスを覚える。
 ブロードウェイにも行って踊ってみたい。
 そのために、ちゃんと英語ができないと大変だもの。
 だから学校へ戻る。
 もう、そう決めた!」


 そうなると、お母さんに会えるかもしれないねと言った瞬間、
優花は、ほんのすこしだけ表情を曇らせてしまいました。
「うん」と言ったきりで、寂しそうにうつむいてしまいます。
この子は生まれた時からおばあと二人きりでいた。
母親の顔を全く知らずに、いままで育てられてきたのです・・・・


 「会えるかなぁ、お母さんに。
 たった一枚しか残っていない、その写真でしか見たことないのに。
 優花だってわかってくれるのかなぁ、
 私のことを、お母さんは」


 優花は生まれた瞬間から
その全身に沖縄の運命を背負って生きてきました。
日本の総面積の、0,6%しかない沖縄には、在日米軍基地の
75%が集中をしています。
朝鮮動乱からベトナム戦争へと続いた極東でのアメリカ軍は存在は、
沖縄における基地の強化と、兵力の大増員をもたらしました。


 同時に、最前線への中継基地としての機能を持たされた沖縄は、
戦争に動員されたてきた兵士たちのための、つかの間の
休暇と歓楽のための休養地として、多くの犠牲を伴いながら、
そしした役割も求められてきました。
占領支配と相まって、この軍事基地の存在自体がアメリカ兵たちによる、
幾多の事故と、凶悪な犯罪を生み出し続けてきたのです。
沖縄にアメリカの軍事基地がある限り、この負の連鎖に
終点はありません。



 優花には、不注意でつらいことを言ってしまいました。
いいつくろうための適当な言葉がみつからず、背中あわせにすわったまま
気まずい時間だけが流れました。
やがて、搭乗案内のアナウンスが流れてきました。


 「沖縄のたたかいは、まだまだこれからだし、
 わたし自身の生き方も、またここからはじまります。
 群馬の兄貴のおかげで、学校に戻る気にも、ようやくとなりました。
 私が笑って見送ってあげないと、罰があたるもんね・・・・
 さぁ、元気に行きましょう」


 優花が、きわめて明るく立ちあがります。
いつものように腕を組んで、搭乗ゲートまで歩きました。



 「また・・・・私のために、来てくれるよね?」

 この子は、とても賢い16歳です。
本土へ復帰したことで、環境が変わることを期待するのではなく、
自らが変革していく意思を持つことのほうが、はるかに大切なことを、
自らの体験とその本能ですでに理解をしています。
自分にあたえられた運命に、真正面から取り組もうとしています。
最後の最後になってまで、優花に沖縄のたくましさを見せてもらいました。
笑顔で手を握りしめている優花が、今日はとても
まぶしい女性のように見えました。

 別れる寸前になってから、握りしめていた指先に、
さらに力が伝わってきました。
真っ白のストローハットを傾けながら、私の顔へ優花の顔が寄ってきます。
「本当はさ、妹よりも、恋人のほうがよかったのに。
でもさ・・・・今となっては、あとのまつりですね・・・・」
すこしだけ躊躇ってから、頬に音をたてて可愛いキスをくれました。
驚いて見つめると、優花の目じりには、キラリと光るものが有ります。
「君はいまでも可愛い。でも、もっといい女になるんだよ。
いつまでも君は、沖縄の俺の妹だ」そう伝えると、『
『うん、解っている!』と、とびっきりの
笑顔を見せてくれました。