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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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森林(もり)のサカナ祭り

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 三人と知り合ってからの毎日は楽しくて、わくわくどきどきの連続だった。
 泳ぎの苦手だったぼくが、すいすい泳げるようになったし、潜り方も教えてもらって見たときの海の中の美しさといったら!
 三人にとっては海ばかりでなく、自然の中全部が遊び場だった。
 ある時は森林の中で秘密基地を作ったり、神社の裏山の洞窟を探検して、中で寝ていたコウモリにちょっかいを出したり。夜の森に行って、セミの幼虫をとってきて、羽化するのを朝まで見ていたり。
「信じられないわね。うちの中でゲームばっかりやっていたヤスハルが……」
 お母さんはうれしそうだ。

 数日後、花火大会があるから一緒に見に行こうとコウジ君から電話があった。港で夜七時から始まるというので、会場近くの橋のそばで待ち合わせた。
「実はさ。今日がさかな祭りの日なんだ」
 突然コウジ君に耳打ちされてびっくりした。
「そんな。いきなりなんてひどいよ」
「ごめんごめん。驚かそうと思ってさ」
 ぼくはどうしたらいいのかわからないくらいそわそわして、落ち着かなかった。
 きょろきょろと辺りを見回していたら、人混みの途切れた先の暗闇の中に、銀色のほのかな光が見えた。目をこらすと、その光りのなかにあの緑色の髪の少年がいて手を振っている。
(ああ、あっちへいけばいいのか)
と思ったとき、最初の花火があがった。「ドン」という音とともに、ぼくははじかれたようにその場から走り出していた。
 見ると、会場のあちこちから子どもたちが走り出している。なのに不思議なことに周りのだれもそのことに気づかない。まるで姿が見えないかのように。
 ぼくたちは森林をめざして走り続けた。いや、走るというより飛んでいるような感じだった。海岸沿いに生えているグミやトベラのかん木を飛びこえ、小高い丘のカシやシイの林をくぐりぬけ、やがてコナラやブナの森へと。
 すると、ぼくたちの体は銀色に輝き始め、さかなに変わった。そしてますますスピードを上げ、木々のはざまを泳ぎぬけていった。
「すごい。すごいぞ」
 ぼくの心臓は高鳴った。
 それからぼくたちさかなの群は空高く舞い上がり、こうこうと輝く月をめざして泳ぎ続けた。そしてのぼりつめた次の瞬間、今度はものすごい勢いで急降下し始め、ぼくたちは雨の一粒一粒に姿を変えて森林に降りそそいでいった。
 森林の木々は地面にしみこんだ水を吸いこみ、大地にしっかりと根を張っていく。幹は空を目指し、枝はその腕を伸ばし、葉はますます緑を豊かにして吐きだした息は清涼な大気になる。
 ああ、地球が呼吸しているんだ。
 ついでぼくたちは水になって川にそそいでいった。川は小さな生き物たちをはぐくむ栄養分をたくわえて、海に流れこむ。またぼくたちはさかなになって海を自由に泳ぎ回った。
 夜空に花火の音がこだまし、光の花が咲いては消えていくさまを、ぼくたちは海の中から見ていた。