森林(もり)のサカナ祭り
「新しくできたリゾートマンションにいらしたんですね?」
八幡崎(やわたざき)までと行き先を告げたら、運転手さんにたずねられた。するとお母さんは、待ってましたとばかり、おしゃべりを始めた。
「ええ。思い切って買っちゃったんです。うちは田舎がないものですから」
おまけに、お父さんは出張でこられないだの、ぼくがひ弱だのとよけいなことまで言い出すしまつ。
そのうち街の中を通りぬけて、タクシーは山道を上り始めた。しばらくして尾根づたいの道にでると、たちまちはっとするほど鮮やかな、コバルトブルーの海が目の前にとびこんできた。水平線がくっきりと丸く見える。
ぼくはつい身を乗り出して、窓ガラスに思い切りおでこをぶつけてしまった。お母さんはげらげら笑い、運転手さんは必死に笑いをこらえていた。
作品名:森林(もり)のサカナ祭り 作家名:せき あゆみ