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池上は胸をドキドキさせながら慌ててドアを開けた。
「こんにちは。運転手さん。わたし、表参道の駅へ行きたいんです」
 声も素晴らしいと、池上は思った。これまでに聞いたことのないきれいな、甘えるような声だった。優しくて真面目な性格の女性らしいとも、池上は思った。
「ありがとうございます。表参道ですね。シートベルトをお願いします。ドアを閉めてもよろしいでしょうか」
「はい。どのくらいで着きますか?」
池上はドアを閉め、メーターのボタンを押した。ギアシフトを「D」にしてブレーキペダルから足を放すと車は前進を始めた。駅の周辺には路上駐車している車が多くて通行することが難しい。周囲を確かめずに急にドアを開けられる場合も多い。
「赤信号が多いと二十分ですが、少なければ十五分です。渋滞が多いと三十分以上になりますが、今はそういうことはないと思います」
「凄く急いでいるわけではないので、無理しないでくださいね」
「はい」
作品名:スケートリンク 作家名:マナーモード