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もう一度、結び直したい、夫婦の絆を

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今、凛太郎は妻の綾乃のために蟹の身をほじくり出しながら、そんなことをぼんやりと思い出した。

しかし、あの時の病床にある父との会話、あれは一体何だったんだろうか?
父は最後に、息子の凛太郎に何を言い残したかったのだろうか?
凛太郎にはわからない。

「まだですか?」
そんな時に妻がせっついてきた。あれほどまでに聡明で品格のあった綾乃が、今、作法もなく無遠慮に、三杯酢の入った器を目の前に差し出してきた。

「ちょっと待っててね」
凛太郎はできるだけ優しく返した。しかしそんな妻を見て、もう不憫でならない。

これから老い行く二人の人生、いたわり合いながら楽しく、そして尊厳を持って暮らしてゆきたい。絶対にそうしようと自分自身を鼓舞した。
しかし、その後に・・・それはあまりにも唐突だった。

「ところで・・・お宅さまは・・・どちらさまですか?」

凛太郎は手にしていた細い金棒をぽとりと落とした。
だが、できるだけ心を落ち着かせ答える。
「俺はお前の・・・・・・夫なんだよ」
ひょっとすると綾乃の中に俺はいないのだなあ、と疑ったためか、凛太郎の言葉には力強さはなかった。

そして、それを無視するように妻が尋ねてくる。
「ねえ、逢いたいわ。今どうしてるの・・・大輔さんは?」

妻の綾乃がまた口にした名前、大輔さん。
凛太郎はこれを噛み締めながらしばらく沈黙を続ける。そしてその後、あの時父が吐いた同じ口調で、返事にならない呟きを返す。

「ああ」