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もう一度、結び直したい、夫婦の絆を

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そして、もうしばらくもすれば、凛太郎も還暦を迎える。
きっとそこから始まるだろう・・・老いが。
妻と互いをいたわり合いながら、二人でゆっくりとした時を刻んでゆきたい。

そんなことを思い始めた頃のことだった。妻が辛そうに話してきた。
「あなた、私、最近、物忘れがひどくって・・・、ちょっと恐いわ」

「何言ってんだよ、大丈夫だよ」
凛太郎は、しっかり者の綾乃がそんなことになるわけがないと思っていたし・・・、いや、そのように考えたくもなかったからかも知れない。だから否定した。

しかし、妻は今日、このさほど大きくもない温泉宿の中で、道に・・・いや廊下で迷ってしまった。
「綾乃は昔から方向音痴だったからな。さっ綾乃、夕飯だよ。蟹が一杯出てくるからね」
凛太郎はそう声を掛けると、「そうお、冬は蟹が一番ね。子供たちも好きだったわ、帰りに送ってやりましょよ」と、もう道に迷ったことも忘れてしまっている。

それからしばらくして、部屋に食事は用意され、凛太郎と綾乃は夕食を取り始めた。

しかし妻は、あれだけ得意だったのに・・・蟹の身がほじくり出せない。凛太郎は一所懸命妻のために三杯酢の器へと身を取り出してやる。

「どうだ、綾乃、美味いか?」
凛太郎は妻に尋ねてみた。すると綾乃はキラッと目を輝かせ言ったのだ。

「あらっ、大輔さん、私これ好きなのよ。だからもっと頑張って、取ってちょうだい!」