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ゆきだるまさんのおはなし

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 しばらく雪と曇りが交互に続いていた悪天が終わり、快晴となった日のこと。
 あいちゃんは、今日も学校から帰ってきて、僕にお話を聞かせてくれる。でも、いつものように僕の前に座ると、少し首を傾げた。
「ゆきだるまさん、なんだかぬれてるね」
「今日は晴れていて暖かかったからね。融けちゃったんだ」
「ふうん……だいじょうぶ? 体こわれない?」
「大丈夫だよ」
 本当は、頭と体(というのだろうか)の接着面も、少しぐらついている。目や耳も油断したら取れてしまいそうだ。
 あいちゃんは、雪を拾ってきて、僕の身体にぺたぺたとくっつけて補強してくれる。でも、その雪も数日前までのものに比べると少し水っぽいようだ。
「僕は大丈夫だから、あいちゃんのお話を聞かせてよ」
 促すと、あいちゃんは手の雪を払い、椅子の上に座った。
「……今日はね、けんたくんにいじめられたの」
「けんたくん?」
「ようちえんから同じクラスなの。”くされえん”ってやつ!」
「何をされたんだい?」
「えっとね、けしゴムをかくされたでしょ、すわるときにいすをひっぱられたでしょ、ノートにらくがきされたでしょ……」
 言いながら、背負っていたランドセルを開け、ノートを見せてくれる。「ほら!」とさされたページには、うんこの絵が書いてある。
 微笑ましいいたずらじゃないか、と思ってしまった。きっと、男の子としては、相手の反応が面白くてやってしまっているだけに違いないのだ。あいちゃんがそれを冗談と受け止めていないかもしれないのが問題だけれど。
「けんたくんはね、あいちゃんのことが嫌いなわけじゃないと思うよ」
「そんなことないよ! けんたくんいやだ!」
 と、そのとき、白い塊が飛んできて、あいちゃんの背中で弾けた。
 誰かが庭に入ってきて、雪玉を投げた。そう硬いものではなかったはずだけど、雪玉をぶつけられたあいちゃんは怯んでいた。
「なーにやってんだよ!」
 男の子の声だ。ずかずかと庭を横切りあいちゃんの横に、僕の目の前にやってくる。
「もしかして、ゆきだるまにはなしかけてたのかぁ?」
「はっ……話しかけてないもん」
「あっれ~おかしいなぁ。声がしたんだけどなぁ~?」
「けんたくんには関係ないもん! あっちいって!」
 でも、けんたくんはまた素早く雪玉を作り、あいちゃんにぶつけた。あいちゃんも反撃するけれど、ひょいっとよけられてしまう。やっぱり、けんたくんはあいちゃんの必死な表情が面白いみたいだ。
「ほらほら、あててみろよ~」
「やだ! もう、むかつく!」
 僕の前に立っていたけんたくんが、あいちゃんの雪玉をよけたので、それが僕の顔に命中してしまった。別に僕は痛くもかゆくもないんだけど、目の周りについら雪で視界がふさがれてしまう。
「ゆきだるまさん!」
「じばくだろじばく~」
「ひどい! けんたくんもうかえってよ!!」
 しばらく、二人の声だけを聞きながらやりとりを見守っていたんだけれど。
 ようやく、顔についていた雪が全部下に落ち、目が見えるようになった時だった。けんたくんが足を滑らせ、僕のほうに倒れこんできたのは……。
「あっ!」
 反転した視界の中で、あいちゃんの声が聞こえる。
 けんたくんは、僕にぶつかったけれど尻もちをついただけですんだ。僕は、頭と体が完全に分離して、頭が地面に転がってしまった。
 口の木炭は完全にどこかに飛んで行ってしまい、目は片方がつぶれ、耳もかろうじて片方がくっついている状態になってしまった。
「ゆきだるまさぁぁん」
「ゆきだるまこわれたくらいで泣いてやんの~」
「ひどいよ! けんたくんのばかぁぁ」
 顔は地面の上で明後日の方向を向いてしまったので、二人の声しか聞こえないのだけど、ひどい状況のようだ。あいちゃんが泣き叫びながらけんたくんに雪を投げ、けんたくんはそれをかわしながら笑っている。このままじゃ本当に喧嘩になってしまうんじゃないだろうか。僕は平気だよ、だから落ち着いてよ二人とも。
「あっ……やべっ」
 玄関のドアが開く音と、けんたくんが走り去っていく足音が聞こえた。あいちゃんのお母さんが出てきて、あいちゃんに声をかけると、あいちゃんはお母さんに泣きついた。。
「けんたくんがっ、ゆきだるまさんがぁぁ……」
 あいちゃんは笑顔が素敵なんだから、そんなに泣かないで。僕の体は雪でできているんだから、別に痛くもないし、直すことだって簡単にできるんだよ。
 お母さんの前でもそう声をかけたかったけれど、あいにく口がとれてしまったのでそうもできない。じれったい思いをしているうちに、あいちゃんはお母さんに連れられて家の中に入っていった。
 あいちゃんがいてけんたくんがいた、さっきまでの騒々しさが嘘のように、辺りはしんと静まり返ってしまった。
 夕方の庭に、僕はひとり取り残された。
 崩れた体は、見てくれは悪いけどそれほど苦ではなかった。やがて日が落ちていくけれど、夜の空気も思ったよりも冷たくない。
 遠くの空で星が瞬いているのが見えた。きっと明日も、晴れるだろう。

作品名:ゆきだるまさんのおはなし 作家名:亜梨