ゆきだるまさんのおはなし
あいちゃんは、学校から帰ってくると、毎日僕に話しかけてくれた。
「ゆきだるまさん、ただいま!」
「おかえり、あいちゃん」
一旦家の中に入るけれど、ランドセルを玄関の奥に放り、すぐに駆けだしてくる。木の椅子を僕の前に置いて、おしゃべりする。
「今日ね、漢字が上手にかけてほめられたの」
「体育のじかん、ちょっと失敗しちゃった……」
「今日の給食はカレーライスだったよ」
「これからお母さんといっしょに夕ごはん作るんだ! ちゃんとお手伝いもするんだよ」
あいちゃんは、いろんな話をしてくれた。僕が動けないのを残念がって、僕の出来ないこと、行けないところの話をたくさん聞かせてくれた。
けれど、気になることがあった。毎日学校に行っているのに、友達の話が全然出てこないこと。
10日くらい経った頃だろうか、思い切って聞いてみることにした。
「あいちゃん、学校は楽しいかい」
「うん、楽しいよ」
「お友達ともいっぱい遊んでいるかい」
そう聞くと、あいちゃんは顔を曇らせた。
「あい……あんまりお友達いないの」
「どうして?」
「休みじかんいっつも本よんでるから、つまんないんだって。あとね、あい、スポーツも下手だから、よくみんなに笑われるの」
そんなことだろうとは思っていた。あいちゃんは利発そうな子だけども、少し人見知りをするところがある。このあいだも、おばさんの家に行くのを不安がって、お母さんを困らせていたじゃないか。
「でも、ゆきだるまさんがお友達だから、楽しいよ!」
そう言ってくれるのは嬉しいけれど……それでいいのかい、あいちゃん。
でも、言えなかった。無責任だ、僕には何もできないのだから。僕はただここでこうしてあいちゃんのお話を聞いてあげることしかできない。そのうちに気の合うお友達ができるよ、なんて気休めも、小学1年生には少し難しいだろう。
せめて僕に手があったなら、あいちゃんの頭を撫でてあげられるのになと、そんなことを思った。
作品名:ゆきだるまさんのおはなし 作家名:亜梨