ゆきだるまさんのおはなし
あいちゃんが僕を作ってくれた。
家の広い庭で、たったひとりで雪玉を転がし、大きくなったそれを二つ重ねて。
初めに、耳をつけてくれた。雪だるまに耳なんて、とも思ったけれど、
「学校でよんだ本はね、ゆきだるまにね、うさぎさんみたいな耳がついてたの」
それで僕はあいちゃんの声が聞こえるようになった。うさぎのような長い耳は難しかったらしく、僕の耳はネコ耳だけれど。
それから、木炭をお母さんにもらってきて、目をつけてくれた。明るくなった視界に現れたあいちゃんは、声から想像する通りの、とても可愛らしい小さな女の子だ。ほっぺを真っ赤にして、今度は僕の口を作ってくれている。
「できた!」
満足気な顔で、僕の頭をなでる。それからあっと思いだした顔をして、家の中に戻り、小さなプラスチックのバケツを持って出てきた。それを僕の頭の上にのせてくれる。
「ふふ、ぼうし、おにあいですね」
「それはどうもありがとう」
「どういたしまして」
ぺこり、とお辞儀をしたあと、目を丸くして飛び上がる。
「しゃべった!」
「しゃべるよ、口があるもの」
「お母さぁーん!!」
お母さんを呼びに、家の中へ走っていく。やれやれ、元気な子だなぁ。
でも、あいちゃんがお母さんの手を引いて戻ってきても、僕はだんまりを決め込む。あいちゃんは「なんでしゃべってくれないの!」と地団太を踏み、お母さんは困った顔で笑っている。
お母さんが家の中に戻って行った後で、僕はあいちゃんに話しかけた。
「僕がしゃべれるのは、内緒だよ」
「ないしょ?」
「うん。僕とあいちゃんだけの秘密だよ」
あいちゃんは、ぱああっと顔を輝かせる。この年頃の子どもと言うのは、秘密とか内緒が好きなのだ。
その日から、僕とあいちゃんは友達になった。
作品名:ゆきだるまさんのおはなし 作家名:亜梨