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SORROW CURSE -序-

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 そのうち鎧や武器などの素材さえ分からないようになってくる。
 剣の形をした落ちているものも持ち上げた時点で崩れてしまいそうだ。
「まぁ、最奥まで行かないと俺の目的は達成できないわけだが・・・」
 サフェイロスの目的の一つ、同僚だという人物が誰だったのか確かめるためには、竜がいた地に行かねばならない。
 それが最終地点だという。
 竜が生きているなら、今尚そこにいるだろうとも考えられる。
「本当にやばそうだったら、逃げろよ」
 二年前の跡なのか、所々崩れている箇所が見える。
「でも・・・」
「逃げて、この状態を伝えることも大切だ。状態がわかれば対策も練れる」
 もしかして、洞窟を進みながら周囲の状況説明をしてきたのもそのためなのだろうか。
 そう思うと、笑顔であってもサフェイロスも命をかけているのかもしれないと胸が痛くなる。
 好奇心だけでついてきてしまった自分の浅はかさが悲しい。
「何事もないことをお祈りします」
 それしかいえなかった。
 それだけの邪気を放つ存在が先にありながら、何も無いとは思わない。
「それが一番だな」
 サフェイロスとしては、妙な胸騒ぎはするのだがそれが自分の生死にかかわる予感のようには思っていなかった。
 同行しているトスィーアの身に何かが起こるとも思わない。
 勘はいいほうなのだ。
 百発百中とは行かないが良くあたる。
 これは幼馴染にもよく笑われた。



   ***


 そんなことを感じつつ、いくばくも行かないうちに。
 トスィーアの持つ錫杖の光が壁面や天井を照らさない場所に出た。
 つまり、広い場所ということだ。
「・・・・・・」
 いよいよ到着したのだろう。
 緊張に震えて汗ばむ腕を叱咤するように、錫杖を両手でささえる。
「・・・・・・いるな」
 静かな中では小さな声も良く聞こえる。
 思わずビクリと肩を揺らしてしまった。
 サフェイロスは一つ息を大きくすう。
「いるのだろう、ドラゴン?」
 息遣いは聞こえなかった。
 光の照らす範囲外にいるのだろうが、これでは大きさも知れない。
 小型であればいいな、と僅かな竜に関する知識を動員しながらトスィーアは願う。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 一つか二つの呼吸の間だろうが、酷く長く感じた。
『……人間か』
「!!」
 頭に直接響いてきた声に、錫杖を取り落としそうになる。
 その声は人間で言うなら男性のもので、厳かでいて低くも高くも無い。
「姿をみせてもらっていいか?」
 臆することなく一歩踏み出す。
『見れば恐怖で言葉も無くなるとだろう』
「それでも、俺はアンタの姿を見て話したい」
『・・・・・・好きにしろ』
 そのやり取りが、妙に人間臭くてトスィーアはあっけに取られた。
 竜の声ももっと魂を揺さぶるほどの衝撃を伴うと思ったのに。
「では遠慮なく」
 何か魔法を使う気なのだろうが一体どんな魔法だろうと見ていると、サフェイロスはパンッと一回手のひらを打ち合わせてそれを高く掲げた。
 掲げた手のひらからは無数の光球が上昇し散る。
 なにか有るらしい影は見えたがそれでは照らしきれない。
 思った以上に広い洞穴らしい。
「シャイン!」
 もういちどサフェイロスが両手を合わせる。
「!」
 すると光球一つ一つの光がまして昼のように辺りを照らした。
 今まで暗いところにいたためにその明かりは目をくらませるほども強い輝きとなって、暫し視界がとざされる。
「・・・・・・っ」
 そんななか、サフェイロスの気配に変化を感じた。
 「早く目を開けなければ」と思っても徐々にしかあけられない。
『こんな姿でも見たかったというか?』
「あ、ああ・・・」
 一体どんな姿なのだろう。
 そういえば、と思い至って回復魔法を自分の目にかける。
 これであけられるはずだ。
「それは二年前・・・?」
『二年・・・そんなにもなるのか。否、この姿はそれよりも前からだ』
「あ・・・・」
 目を開いた先にあったのは、いや、いたのは想像より巨大な竜だった。
 広大な洞窟のなかに押し込まれるようにして存在する。
 頭だけ、口だけでもサフェイロスやトスィーアが幾人入っても余りそうな程。
 しかし、それよりも目を引いたのはその姿だった。
 肉体の所々の肉が腐り落ち、ところによっては骨がむき出している。
 顔に至っては片側は既に白骨化して、かろうじて残る片側の肉も今にも落ちてしまいそうだった。
 眼窩には既に何も存在しない。
 元は翼竜で…色は黒だったのだろうか・・・?
「そんな姿になってまでも生きている・・・意識があるとは・・・九竜にも匹敵する存在か?」
 「九竜?」思わずでそうになった疑問を口元で止める。
 知らないことは少しでも早く知りたいが、この場ではこの一人と一匹(匹という単位が正しいか分からない)の会話を邪魔してはいけないと思ったのだ。
『九竜か・・私の名前はラサータラという』
「九竜の黒竜ラサータラか!」
 サフェイロスの驚きからして有名な竜なのだろう。
「しかし、ラサータラは人間嫌いと聞いた。何故俺と言葉を交わす?」
『……アレを見よ』
 アレ、といわれたところで指し示されたわけではないのだが、サフェイロスとトスィーアが意識を向けた先には見覚えの有るエンブレムが転がっていた。
「!!」
 トスィーアは何故かとっさには思い出せなかったが、サフェイロスの驚きはいかほどだったか。
「そうか・・・もしかして・・・転変…」
 一人ごちるその内容はわからない。
「守ってたんだな、洞窟の入口に結界を張って外への影響を最小限にして。その動けなくなった身で・・・」
『・・・・・・・・・』
 返事は無い。
 また、サフェイロスもそのエンブレムを拾いにゆかなかった。
 何か恐ろしいものでもあるかのように、視線をそらす。
 変わりに傍らにトスィーアを寄せた。
「?」
 何事かと思うと、どっかり腰をおろしてしまった。
「トスィーアも座れ」
 そういうと自分の荷物をあさり始める。
「あ、はい・・・」
 何がしたいのか分からなかったが、言われるままにしておく。
 そこで気づいた。
 あのエンブレムと同じものが、サフェイロスの鎧の右胸にも輝いている。
 風化もせず金色に輝いているエンブレム。
 アレが残っていて、なおかつソレしか残っていないというのも妙ではあるが、あれがサフェイロスの探し人の遺品になるのだろう。
「ラサータラはその呪いのためにこの地に下りざるを得なかったのか」
 静かに言いながらも、水筒を取り出して中身を注ぐ。
 サフェイロスの持つ水筒にはワインが入っている。
 当然只のワインではないが、アルコールであることには変わりない。
「呪い・・・?」
「自ら放つものとは違う、第三者の悪意が感じられる」
『流石だな・・・その通りだ』
 水筒をあけると、それを自分から言って竜の頭のあるほうへおく。
 その行動の意味は分からなかったが、後で聞こうと思うだけだ。
 または後でわかるかもしれない。
『人間の住まぬ地で穏やかに過ごしていたがそこに人間が足を踏み入れた。自分の地を荒らされて文句を言うのは通りだろう?しかし人間はそう見なかった』
作品名:SORROW CURSE -序- 作家名:吉 朋