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SORROW CURSE -序-

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 唱えながらトスィーアに視線と手のしぐさで水筒を渡すように言う。
 分けが分からず水筒を渡すと、一滴指先にうまい具合にたらしてトスィーアの前髪を上げて額につける。
「?」
 同じ動作を自分にもする。
「できるだけ俺から離れるなよ・・・マントの端でも握っているのが良いか」
 マントの端を握っていてはいざというとき身動きが取れないのではないだろうか。
 そうは思ったが、素直に裾に手をかける。
「でてきたぞ」
「えっ・・・・・!?」
 視線をさまよわせると、動く影が見えた。
 良く見れば、緩慢な動きをする人影で・・・その皮膚は腐って削げ落ち、目に当たる部分には目玉も無かった。
 手には剣を持ち、服はぼろぼろ。
「!!!!!」
 予想はしていたが、余りのおぞましい姿に声も出ない。
 胸からせりあがってくるものがあるが、なんとか出さずに済んだのは本人の意志の力によるところだろう。
「さっきまでの気に引かれてきたな。・・・いくぞ」
 今にも向って来ようかと言うのに剣を抜きもせずに歩き始める。
 追ってくるのではないかとドキドキしながら引かれるままに進めば、アンデットはその場から動きもしなかった。
「何がどうなって・・・」
 マントを握りながら状況がつかめずにおずおずと尋ねる。
「さっきの魔法な、アンデットから気配を遮断する魔法だ。これで目標物もないから襲ってもこない」
「え?」
 そんなに簡単に口にできるような魔法ではないはずだ。
「まぁ、難点はこちらからもアンデットの気配が分からないところか・・・あと、持続中魔力を消費し続けるところな」
「それは大変なのでは!?」
 それでは、竜のところについたときには魔力が尽きているかもしれない
 まだ数刻も歩こうかというのに。
「まぁ、だから休まず真っ直ぐいくつもりだけど宜しくな」
「あ、はい・・・」
 本当にそれでいいのか。
 そもそも大変なのはサフェイロスのほうだ。
 自分の為にそんなことまでしてもらっているのなら申し訳ないと思うのだが、謝罪や感謝ができそうに無い雰囲気が今のサフェイロスにはある。
 とにもかくにも、ただついてゆくしかトスィーアにはできなかった。



 「体力のほうは大丈夫か?」
 そう聞かれたときには、すでに何体ものアンデットを遠目に、或は間近にみてトスィーアも精神的に慣れてきたころだった。
 聖職者たるもの不幸にも天に召されることさえできなく、地上をさまようアンデットとなってしまった人をみれば浄化しようとするのが最善なのだろうが、初めは生理的嫌悪感からそんな思考さえ働かなかった。
 やっと、アンデットに対して哀れみの感情を抱けるようになったころだ。
「あ、はい。思ったより歩きやすい道ですね」
 これにはサフェイロスも驚いたのだが、本人が言ったとおりトスィーアは健脚だった。
 普段から鍛えているサフェイロスはまだ疲れも出てこないが、華奢で弱弱しい印象さえ周囲に与えかねない少女(本当は少年)が此処まで平然と歩くとは思わなかった。
「2年前の道が思ったよりしっかり残っていたな」
 特に、洞窟に近づけば近づくほど荒れているかと思いきや、近くのほうがある意味歩きやすかった。
 草木が殆ど無かったのだ。
 只歩く時にアンデットに気を取られているだけのトスィーアと違い、サフェイロスはその理由も目的地へと向う中で見つけていた。
「あ、もしかしてあれが目的地の洞窟ですか?
 マントの裾を握りながら錫杖で先を示すとその先には確かに洞窟があった。
 入口周辺の地形などからいい、話に聞いた洞窟だろう。
 話に聞いた状態では、背の低い木が辺りには影を作っていたはずだが。
 今見る限りは、周辺は岩や土が見えるだけで緑色など見えやしない。
「最悪、もしかしたら…」
 つぶやく声はトスィーアには聞こえない。
 それまでと変わりなく堂々と進むサフェイロスについて行くだけだ。
「・・・う」
 洞窟の穴の前までくると、トスィーアはとっさに胸元を押さえた。
 無性に胸がむかむかしだす。
 何かが腐ったような臭いが鼻をかすめて脳まで浸透してきそうだ。
 サフェイロスの話では、ゾンビなどの腐敗しているアンデットは本来強烈な悪臭を放っているらしいのだが、今までは魔法でそれさえも遮断されていた。
 それが切れたのだろうか。
 そう思ってしまう臭いだ。
「トスィーア、杖を貸してくれ」
 口元を押さえて、今にもうずくまってしまいそうなトスィーアから半ば強引に錫杖を取り上げると、またなにやら唱えだす。
 トスィーアは見ているしかなかった。
 何をやっているのかもわからない。
「・・・・・・イノセント・ライト」
 最後の一言だけいやに明確に聞こえた。
「・・・・・・あ」
 その声と同時に錫杖の先の部分が光だし、嫌なにおいがしなくなった。
 何と無く感じていた不穏な気配もだ。
「この奥にアンデットの親玉がいるらしいな・・・いけるか?」
 言いながら杖を返す。
 白い光が心地よかった。
「その光が照らす範囲はさっきまでの魔法と同じ効果がある。一日二日は持つようにしたからいざとなったらお前だけでも逃げろ」
「・・・いえ、逃げません」
 アンデットの親玉とサフェイロスが呼んだ存在こそ、きっと竜に違いない。
 何故こんなことになっているのか知りたい。
 これほど広範囲にわたって力の影響下におけるということは魔力も知性も高いのだろう。
 力有る竜は知性も人間のそれより遥かに高いという。
 竜とはどのような存在であるのか、知ることができるかもしれない。
 それにサフェイロスを置いて逃げおおせても自分の心が後悔に押しつぶされない自信も無い。
 それなら前へ進むだけだ。
「足手まといにならないよう、がんばります」
 今まで足手まといになっていなかったとは言えない。
 しかし、コレからが本番だ。
「うん、頼もしいな?」
 笑顔のサフェイロスはこれから大きな存在に立ち向かう様子など微塵も無かった。
 それが頼もしくもあり、笑顔を返すことができた。


   ***

「あぁ・・・」
 サフェイロスの魔法により松明の役割を果たす錫杖を掲げるように持ちながら、洞窟の中の惨状に思わず声を漏らす。
 外はゾンビとなった人々が徘徊していたが、洞窟の中は腐っている肉さえも殆どついていなかった。
 奥に進むほどその状態は酷くなり、骨だけな状態のものも見て取れるようになった。着ていた服や鎧、武器などが散乱するだけの状態も見えるようになる。
「この結界の外は凄いな」
 トスィーアは守られているだけで外の様子などうかがい知れない。
「洞窟に一歩入った辺りから空気のよどみが凄い。毒性があるどころではないよ」
 洞窟内には動く者の気配が無かった。
 闇が重く立ち込めていて、サフェイロスが作り出した光の外へでれば死が待っていることが感じられる。
 しかし、妙にサフェイロスの存在のせいかトスィーアに恐怖は無かった。
 軽々と魔法をつかって万事を排除してくれた。
 その様子に疲れも焦燥も無く実に飄々と感じられたのだ。
「このあたりは遺品を持ち出そうにも、物自体が外まで耐えられるか分からないな」
作品名:SORROW CURSE -序- 作家名:吉 朋