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牙狼<GARO> -MAKAISENKI-外伝・落日の都

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 東西南北の番犬所が守護する内の一つ、東の管轄。桐生マキナはそこに来ていた。この地へ向かうのが決まったのはつい二日前で、元老院の長グレスからの指令が事の発端だった。

「桐生マキナ、騎士達が次々に赤い仮面の男に破滅の刻印を刻まれています」

「あぁ、知ってるさ。あの鋼牙…黄金騎士でさえ退けられなかったようだからな」

 グレスは微かに頷き、憂慮の色が見て取れる瞳を僅かに伏せて言葉を続けた。マキナは軽口を止め、再び耳を傾ける。

「現在元老院では破滅の刻印の解除方法を、魔戒法師達に探らせています。そこでマキナ、貴方は東の番犬所で落日の都への進入許可を貰い破滅の刻印の解呪法を書庫から探すのです」

 落日の都。それは古の時代魔戒騎士達によって守られた霊域で、立ち入ることは番犬所と元老院の許可なくしては許されず、それは元老院の所属騎士でも例外ではないという、“守りし者”達により堅く守られてきた地である。そこには、古の書物や嘗て<ホラーの牙>を用いて戦っていた戦士達の武器が安置されており、ホラーと戦ってきた歴史と共にあるかの地ならば破滅の刻印についての解呪法があろうと元老院が判断を下したのだった。
 推論の形となっているのは落日の都には守護獣が待ち構え、その力を制したものにのみ都の叡知を授けるとされているからだ。その力は黄金騎士にも匹敵するとされ、過去多くの騎士や法師がその力の前に敗れ去ったとされる。それは力の悪用を恐れた先人達による策だったのだろう。そのせいで都の力を手にした魔戒法師も魔戒騎士もいまだ存在しなかった。
 
「元老院が昔話に頼るほどの事態ってのもなぁ…ま、他に方法がないようなら縋りたくもならぁな」

 そうしてマキナの東の管轄入りが決まったのだった。仮住まいとした使っていた家から必要なものを最低限持っていく事は一日と掛からなかったし、以前東の管轄の魔戒騎士だったマキナには厄介先のアテもある。指令を受けてその日の内に北の管轄にある自宅から東の管轄へと、移動を始めた。

『…マキナ、これは時間の無駄よ』

「分かっちゃいないぜ、ジルバ。折角の旅なんだからこういう楽しみも少しはなくちゃな」

 高いソプラノの声を呆れた声色で奏でるジルバに軽口で返し、マキナは愛用の4WDでもって軽快に高速道路を飛ばしていた。本来ならば魔戒道を使えば一時間とかからない道程ではあるが、マキナは「風情がない」と魔戒道を嫌う。旅好きな性格も相俟って、のんびりと旅行気分で東の管轄内に入ったのがつい昨日だ。マキナにとって懐かしい道を走りながら、思い付いたように呟きが漏れ出た。

「番犬所の前にちょいと寄り道していくか」

『…元気かしらね、二人とも』

 その言葉だけでジルバには何の事か分かったらしい。普段はフラットな声色の口調に柔らかさと懐かしさが混じる。そんな相棒の調子に上機嫌な笑みを浮かべたマキナは、車の行き先を変えた。適当な駐車場に停め、路地に入ると目的地が見えてきた。そこは『Golden Wolf』と書かれた看板の掛かったバーだ。

「おやっさん、いるかい?」

「あの、まだ準備ちゅ…」

 準備中の札を掛けられた扉を気にせずに開けると中へと入る。そうして投げ掛けた声に反応したのは、若い、二十代の女性だった。カウンターでグラスを磨いていた彼女は表の札が目に入らなかったのかとばかりにじろりとこちらを振り返り、言葉を作りかけて固まった。

「久しぶりだな、瑠花」

「な、な……!」

 瑠花と呼ばれた女性は、長い、栗色の髪を結い上げポニーテールとし、白のシャツと黒のスカートというシンプルな出で立ちで、勝ち気そうな深い夜色の瞳を見開き人差し指をこちらに向けてわなわなと震えて居た。そうかそうか、震えるほど再会が嬉しいか、俺も嬉しいぞ。

「ふんッ!!」

 予想に反して、フォークが飛んできた。顔面狙いだ。魔戒騎士として鍛えているマキナは当然これを受け止める事が出来たが、殆どノーモーションでいつフォークを取ったのか気付かせない身のこなしであった。内心、冷や汗である。

(こいつ、鍛えてやがったな!?)

「久しぶりだな、じゃないわよ!今までろくに連絡も寄越さないで!!どこほっつき歩いてたの!」

「待て待て待て!落ち着け!つーか、フォーク持って詰め寄ってくるなよ!?あと、お前は俺のかーちゃんか!」

 烈火のごとく声を荒げ、瑠花はマキナの眼前まで詰め寄ってきた。慌てて耳を塞ぎ、きゃんきゃんと高い声で怒鳴る瑠花をどうどうと宥めるがあまり効果はなく、結局マキナは相棒の力を借りることにした。

『…瑠花…元気にしていた?』

 眼前に突き出した懐中時計の蓋に刻まれた狼に似たレリーフが喋り出した。その声に、瑠花の猛然とした怒りの声がぱったりと静まり逆に旧知の友と再会したように声を弾ませた。

「あたしはご覧の通りだよ、ジルバ!あなたこそ元気だった?」

『ご覧の通りよ』

 自分そっちのけで会話に華を咲かせる一人と一体を眺めながらマキナは苦笑を溢した。そんな中、階段を降りてくる足音にそちらを向くと背の高い、短く切った白髪の六十代半ばといった出で立ちの男性が降りてきた。騒がしさに階下に降りてきたのだろう、マキナの姿を見るなり髭を蓄えた口許に笑みを浮かべて歩み寄ってマキナの肩を叩く。

「マキナ、お前帰って来てたのか」

「おやっさん、久し振りです」

 響 浩司。瑠花の父親でもあり、魔戒法師でもある彼はマキナとは旧知の仲だ。魔戒騎士を助け、魔導具を作る彼ら魔戒法師の中でも浩司の作る魔導具は多くの魔戒騎士達の手助けを行っている。浩司は嬉しそうに笑いながら、手に持っていたジッポライターのような魔導具を、彼に握らせた。

「ほれ、先日お前に頼まれてた新しい魔導火だ」

「相変わらず仕事早いスね、助かります」

 魔導火を着火させると、白色の炎が高く上がった。満足げに頷いて礼を告げ、それをコートの内側にしまう。カウンターを指差し、話そうと促す浩司に頷いてジルバを瑠花に任せマキナはカウンターで水を受け取りながら席に座った。それを見るや途端、浩司の目付きが真剣なものに変わる。


「どうも魔導火を受け取りに来たってだけじゃなさそうだな?元老院付きの魔戒騎士になったお前さんがこっちに戻ってくるなんてよ」

「おやっさん。破滅の刻印を知ってるか」

「破滅の刻印だって…?」

 マキナから事の経緯を聞いた浩司は渋面を作りながら唸った。破滅の刻印は、魔戒騎士がその鎧を召喚する度に命を蝕む呪術で、彼のもつ文献によるところでは、ホラーの始祖・〈メシア〉の牙といわれる赤き魔獣〈ギャノン〉の力に由来されるものであるらしい。
 ジルバがホラーの気配を感じ取れなかったのは、恐らくその力の一部を何者かが利用しているだけに過ぎないからだと浩司は推測を立てた。

「なるほど落日の都なら破滅の刻印の解除法を見つけ出せるかもな。だが…マキナ、お前…」

「分かってるさ、おやっさん」