「ぶどう園のある街」 第八話
高見は妻との離婚を真剣に考え始めていた。美也子を好きになったからではない。我慢の限界に来ていたからだ。コンビニの仕事は24時間体制なので厳しい時がある。ニ、三時間でもレジの手伝いをしてくれるだけでとても助かる時があるのに妻は拒否する。理由は「あなたが勝手に決めて始めたことでしょ。私には関係ないから」と毎回言われる。勝手に始めたのではない。病気をして勤めることが無理になったから始めたのだ。
確かに妻に相談して決めたことではなかったが、他の選択肢をしていれば手伝ってくれたのかと言うとそうでもないのだ。
妻には趣味があった。若い頃から子供の手が離れたら打ち込みたいと思っていた油絵だ。サークルに入っていて展示会などもやっていたようだが、作品を描くアトリエが欲しいとアパートを借りていた。もちろんそのことは後から解ったことで相談など無かった。入居の保証人にもサインしてなかったから、誰かに頼んだのであろう。自分は相談することなくそうしていながら、生活の基盤になる夫の仕事に無関心なことが高見には許せなかったのだ。
作品名:「ぶどう園のある街」 第八話 作家名:てっしゅう