「ぶどう園のある街」 第八話
家に着いて車から降りた美也子にすっと近寄って高見はキスをした。
突然のことに身体を硬くしてうつむいてしまったが、美也子は嬉しかった。初めてのキスの味は、夢中で解らなかったが高見が言ってくれた「可愛い」と言う言葉がずっと心の中に残っていた。30歳になって初めて言われた嬉しさに今夜は眠れそうに無かった。
両親が温泉から帰ってきた。二日の夕方に仕事から戻ってきた美也子は母の顔色を見てホッとした。困っていたようなことも無く、機嫌も良かったので、父と二人きりの時間を楽しんできたように伺えたからだ。母親は今度は三人で温泉に行きたいと話した。自分もそうしたいと希望はあるが、二日続けて仕事を休むことが今は出来ないと思っているから返事が出来なかった。
作品名:「ぶどう園のある街」 第八話 作家名:てっしゅう