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蒼い空と爽やかな風

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「事故でした。母が運転していたんです。正面衝突で、助手席の父と後部座席左側のわたしは無傷だったのに、母だけ即死でした」
 富士山に車で登ったのは、夏のことだった。私は石沢さんが手作りの昼食を用意してきているとばかり思っていた。眼下に湖を眺めながら食べたのは菓子パンだった。評判のパン屋で買って来たのだと、彼女は云った。
 その後車で暫く移動し、私たちは気持ちの良い草原を並んで歩いた。
「手を繋いで歩きたいね」
「だめです。わたし、アトピーなんです」
「アトピー?すみません。それはどういうこと?」
「皮膚病です。だから……」
 感染する皮膚病なのだろうかと、私は思った。当時はアトピーということばを知らなかった。私は彼女の身体中が皮膚病でひどいことになっているのかも知れないと想像した。そういうことは質問しにくいことだったので、それ以上は追及しなかった。
 彼女が云っていたことで、印象的なことがある。それは彼女がキリスト教徒で、外国人の或る神父を凄く尊敬しているのだという話だった。それは執拗に聞かされた。私はどちらかと云えば無神論者だった。外国人に媚びる女性も嫌いだった。
 もうひとつ、想い出したことがある。私は彼女の医療短大の同級生に惹かれたことがあり、それを電話で告白した。そのとき、彼女は泣いた。私は彼女の私への想いをその事実に依って確認することになった。