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最後の魔法使い 第一章 「南へ」

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入口の向こう側では、人々が賑やかに行きかっていた。
道端でおしゃべりをする少女たち。
いそがしそうに人込みをかき分けて行く中年男性。
のんきにショーウィンドウを覗き込んでいる若い女の人。
腕を組んで歩く老夫婦…。
それは、数日前、政府軍がロウア―ウェストを攻撃する直前までロウア―ウェストでも見れた光景だった。ロウア―ウェストは焼け野原だというのに、ここでは何ら変わらない日常が続いていだ。だれも知らないのか、知っていても気に留めていないのか。アレンは無駄に腹が立って、悲しくなった。
どこへ向かえばいいのか分からずに、アレンはただぼうっと入り口付近で立っていた。人々はアレンに気がつかないのか、さっさと目の前を通り過ぎるばかりだ。また、アレンの身なりを汚いものを見るような眼で見ては、早足で歩き去っていく人もいた。逃げるのに夢中で考えもしなかったようなことが、アーチをくぐった途端に、岩場で寝るのとはまた別の居心地の悪さをアレンに与えた。立っていてもしょうがないので、アレンはしゃがみこんだ。ズボンやシャツは擦り切れて、大きな古いマントをかぐっていたので、恰好だけ見たらアレンは道端の浮浪者と何ら変わらなかった。ちょうど隣には年おいた浮浪者がのんびりと煙草をふかしていた。アレンと目が合うと、浮浪者はにたりと笑った。
「兄ちゃんもいるかい。」浮浪者は、ほれ、と持っていた煙草をアレンに差し出した。アレンは煙草を吸ったことがなかったので、いらないと言って首を振った。浮浪者は、そうかい、と煙草を自分の口に戻した。
「見ない顔だな。おまえさんもおのぼりか。」
「まぁ・・・そんなところです」
「俺もお前さんくらいの年にこっちに来たんだよ。ロウアーノースイーストから、ロウア―イーストに住んで、それからサウスに来たってわけだ。」
「随分遠いところから来たんですね。」
「まぁな。昔はゲート・フォレストはそれほど複雑じゃなかったからな。今よりはずっと楽に移動できたんだよ。兄ちゃんはどこから来たんだ?そんなに恰好じゃ、ずっとロウアーノースの方からあるいてきたんだろ?」浮浪者はへっへっと笑った。「それともなんだ、ロウア―ウェストの火事にでもやられたか?」
アレンは驚いて浮浪者の方を向いた。「ロウア―ウェストのこと、知ってるんですか。」
「まぁな。兄ちゃん、ウェストから来たのかい。」
アレンはうなずいた。「誰も知らないんだと思ってました…みんな、いつも通りみたいだから。」
浮浪者はふん、と鼻を鳴らした。「ウェストのことなんざ、だれもしらねぇよ。誰も気にしちゃいねぇよ。ここの連中はアッパーと何らかわりゃしねぇのさ。自分さえよけりゃ、あとは何でもいいんだよ。」浮浪者は新しい煙草を取り出した。「俺は学者さんに聞いたんだよ。なんでもウェストの方に家族がいるんだと。無事だったらしいがな。」
「ロウア―ウェストは…その、だいじょうぶなんですか。」アレンが尋ねた。
「大丈夫かって?まぁ、その学者さんが言うには、すぐには片づけられねぇくらい街はめちゃめちゃらしいぞ。軍の連中はもういなくなったけど。」
故郷が壊滅状態なのはわかっていたが、改めて第三者にそうと言われると、アレンは泣き出してしまいたいくらい、絶望した。そうですか、とアレンは力なく言って、うつむいた。浮浪者はアレンにかける言葉が見つからなかったのか、気まずそうに残りのたばこを吸っていた。
アレンは視線を少し上げて、歩行者の方へ向けた。母さんのいとこはどこにいるんだろう。アレンは歩行者の中に「ジュダ・ジアーズ」がいないかと道行く顔を見ていたが、そもそも会ったこともない人物だ、見つかるはずもなかった。