愛憎渦巻く世界にて
第15章 カイセン
クルップの船からまた砲撃され、シャルルたちの船に命中はしなかったものの、船が大きく揺れた。その2度目の砲声と振動で、シャルルたちの船にいた全ての人々が目を覚まし、船はパニック状態となった。また砲撃され、3度目の砲声と振動が船を襲う。振動で体を投げ出された見張りの男が、マストの上の見張り台から甲板へ落下し、首の骨を折って即死した……。
「海賊だ!!! 船を北の方角に向け、全力で進め!!!」
そのとき、ウィリアムの大声が聞こえた。甲板に出てきていた彼は、長弓を手にしており、彼の横にいるメアリーは短筒を手にしていた。操舵手はまだおらず、2人は操舵輪がある船尾に向かっていった。シャルルとマリアンヌとゲルマニアは、持ち場へと急いで移動する船員たちをかき分け、2人を追いかけた。
「本当に海賊なんですか?」
シャルルたちよりも先に着いていた航海士が、ウィリアムに質問していた。クルップたちの船には、ゴーリ王国の国旗がはためいていたし、船員たちも海賊に見えなかったのだから、航海士が疑問に思うのも当然だった。
「ゴーリ王国の軍艦がタカミ帝国の国旗がある船を襲うわけがあるか? あの海賊船はゴーリ王国の軍艦のフリをしているだけだ」
ウィリアムが説得力ある口調でそう言ったので、航海士は見事に騙されてくれた。そのとき、やって来た操舵手が操舵輪を手にし、北の方角に向かって右に舵を切り始めた。北の方角には、タカミ帝国があり、ウィリアムはタカミ帝国の領海に逃げ込んで、ゴーリ王国の船であるクルップの船をまくつもりらしかった。
「北の方角に向かうとすると、あの船の前を横切る必要があります。邪魔をされますよ」
航海士が不安そうに言う。クルップの船と接近することになるので当然だった。
「強硬突破だ」
ウィリアムはそう言うと、片膝をついて長弓を構える。既に矢があり、クルップの船の操舵手に狙いを定めていた。
船尾についたシャルルとマリアンヌとゲルマニアは、クルップの船を見ているしかなかった。
「あいつら、タカミ帝国の領海に逃げ込むつもりだな。おい、うちの船も北の方角に向けろ!!!」
甲板にいたクルップが、シャルルたちの船が北の方角に向き始めたのを見て舌打ちした。
「面舵(右)いっぱい!!!」
クルップの船の航海士が横にいる操舵手に命令した。
「ハッ!!!」
航海士は、操舵手の威勢の良い声の後、風を切る静かな音を聞いた……。彼がその音の正体を知ったのは、2度目のその音のときだった……。
「おい!!! さっさと船を北の方角に……。!?」
船がなかなか北の方角に向かないことを不審に思ったクルップが、航海士と操舵手がいる船尾に向かって叫び、彼は一瞬絶句した……。
航海士と操舵手は、矢が頭部を貫通して死んでいた……。2人とも何かによりかかる形で死んでおり、まだ生きているようにも見えた……。
「いつの間に? まさか、あの船から? うわ!」
矢が自分に向かって飛んでくるのを、彼は素早く見つけ、すぐに頭を下げた。彼の頭のすぐ上を矢が通過していった。避けるのがあと一瞬遅ければ、あの航海士と操舵手のように死んでいただろう……。
「クソッタレ!!! 矢も放て!!! ゲルマニア様には当てないようにしろよ!!!」
怒り出したクルップは叫んだ。武器を扱える船員たちはすぐに弓矢を用意し始めた。