愛憎渦巻く世界にて
「どうやら、マリアンヌは君のことが好きなようだ」
3人が船長室に入り、メアリーがドアを閉めると、ウィリアムがいきなり言い出した。
「は!?」
シャルルは、何を言い出すんだという表情で、ウィリアムを見ていた。しかし、ウィリアムとその横にいるメアリーの真剣な表情から、ウィリアムが冗談を言っているわけではないことを理解できた。しかし、マリアンヌが自分を好きだということを理解することはできなかったようだ……。
「おまえらの勘違いじゃないのか?」
「いや間違いない。自分の気持ちなどを主張しないマリアンヌにも問題はあるが、シャルルも女の子の気持ちを理解できないと駄目だぞ」
ウィリアムがシャルルにそう注意した。
「まあ、最近出番が少ないというメタな原因もありますが、これからは気にしてあげなさいよ」
メアリーも注意したが、
「どちらにしろ、身分が違うんだから、どうしようもないじゃないか!?」
シャルルは、困ったことになったという様子で反論した。
「あのなあ……。昨日も言ったが、私の母上、つまり、今のタカミ皇妃は元民間人なんだぞ? 君のムチュー王国でも、大変だと思うが、結婚だってできるはずだ」
ウィリアムが呆れた口調で言う。
「……仮にマリアンヌ姫がぼくのことを好きだとしても、この非常時だからだよ!」
シャルルはそう言い捨てると、船長室から出ていった……。
その後、シャルルたちは、昨夜と同じように寝ることにした。ただ、シャルルは、マリアンヌとの距離を昨夜よりも離していた……。
深夜になり、マリアンヌはそっと起き出し、ぐっすり寝ているシャルルのそばに立った……。彼女は、寂しそうな表情で彼を見ていた……。
「シャルルを恋人にしたいとは思っていないぞ」
突然、後ろからゲルマニアの声がして、マリアンヌは驚いていた。マリアンヌはゲルマニアのほうを振り向いた。
ゲルマニアが寝転がったまま、シャルルのそばに立つマリアンヌを見ていた。ゲルマニアの目つきは、落ち着いた穏やかな目つきだった。
「おまえたちなら、いい夫婦になれると思うぞ。これも勘だがな」
ゲルマニアはマリアンヌにそう言うと、また眠りについた。しっかりとした口調だったので、寝言ではないようだ。
ゲルマニアの言葉に安心したマリアンヌも、また眠りについた。ただ、彼女が眠りについたのは、シャルルのそばだった。
ドーーーン!!! バシャーーーン!!!
突然、砲声や水が弾ける大きな音と激しい振動がして、シャルルは目を覚ました……。ちょうど日の出のときであった。
「敵襲だーーー!!!」
ゲルマニアの大声に、シャルルは飛び起きた。そして、ゲルマニアが指さしている北の方角の右舷を見た。そばでマリアンヌが寝ていることには、まだ気づいていなかった。
1隻のキャラック船が、シャルルたちの船の右側を進んでいた……。その船は、クルップの船だった……。