愛憎渦巻く世界にて
シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!
翌朝のもうすぐ日の出という頃、シャルルとマリアンヌは、聞き慣れない音で目を覚ました。
「おはよう」
ゲルマニアが、剣を研ぎながら挨拶した。ゲルマニアの剣には、ゴーリ王室の紋章が刻み込まれており、特注の剣だということがわかった。その剣の価値は、シャルルが一生働かずに暮らせるぐらいの価値があるだろう……。
「お……おはよう」
「おはようございます」
シャルルとマリアンヌは挨拶をし、甲板を見回した。まだ船員たちは眠っていた。そのとき、太陽が東の地平線から昇り始め、太陽のオレンジ色の光が、船と太陽を照らした。
「よし」
ゲルマニアは、研ぎ終わったばかりの剣を眺めていた。強烈な日光が、剣をギラギラと反射させている。
「まだ航海の途中なのに、今研いでどうするんだ?」
剣を鞘に収めたゲルマニアに、シャルルが尋ねた。
「風上から嫌な匂いがする」
ゲルマニアが船の後方を指さす。シャルルとマリアンヌは、彼女が指さした方向を見る。
「誰かがオナラをしたんじゃないのか?」
「馬鹿! 追っ手の船が迫っているということだ!」
ゲルマニアの言葉に、マリアンヌはぞっとしていた。
「ウィリアムは、敵は北に向かったはずだと言っていたけど?」
「いや、風上から敵の気配がするのだ。戦場で嫌でも培った勘というやつだがな」
ゲルマニアは、真剣な口調と表情でそう言ったが、シャルルとマリアンヌにはわからなかった。
「勘以外の根拠としては、あの港町にこの船より性能がいい船があったことだな」
「どんな船?」
「キャラック戦という、こぎ手がいらない帆船だ。我々が乗り損なったガレオン船を劣化させたような感じの船だな。進水式はまだのはずだが、クルップなら使ってくるかもしれん」
「クルップって?」
「我が国の首都で逃げていたときのことはまだ覚えているだろ? そのときの追っ手の先頭にいた騎士がクルップだ。実は、私の部下だ。今は違うだろうが」
「……なんかいたような気がするな。どんな奴なんだ?」
シャルルが思い出してから尋ねた。
「頭はいいが、あきらめが悪い奴だ。これも根拠の一つだな」
ゲルマニアはやれやれとした口調でそう言ったが、クルップが嫌な奴とまでは思っていないようだ。
「クルップを説得できないのか?」
「説得は難しいだろうな。なにせ貴族出身だから、国王には忠誠を誓っていることだろう」
ゲルマニアが肩を落としてそう言ったので、シャルルはそれ以上言うのをやめ、敵に怯えるマリアンヌをなだめることにした。
だが、そのころには船員たちが起きだしており、朝の新鮮な空気を吸うためか、何人かの船員が、シャルルとマリアンヌとゲルマニアがいる船首にやって来てきた。怪しまれるのはまずいので、ウィリアムとメアリーがいる船長室へ向かうことにした。