愛憎渦巻く世界にて
話が終わると、シャルルたちはもう眠ることにした。船員たちも次々に船のあちこちで眠り始めていた。幸いにも追い風なので、夜番以外の船員は寝ていいことにしたのだ。
ウィリアムとメアリーは、船長室で寝ることにしたが、ゲルマニアはともかく、シャルルとマリアンヌまで船長室で寝るというのは、船員たちに怪しまれる。シャルルとマリアンヌは、ウィリアムの奴隷ということになっているからだ。ちなみに、ゲルマニアは、本人の希望で、ウィリアムの護衛ということにしてある。
「ぼくはここでいいですけど、マリアンヌ姫は構いませんか?」
「大丈夫です。ここは風が気持ちいいので、よく眠れることでしょう」
シャルルとマリアンヌは、この船首でそのまま寝ることにした。
「なら、私もここで構わない」
ゲルマニアも気を使ってそうしてくれた。
「では、おやすみ」
ウィリアムとメアリーは、船長室へ行った。船の甲板のあちこちで船員が寝ており、踏んづけないように注意して進んでいく。
「じゃあ、もう寝るぞ」
ゲルマニアはそう言うと、その場で寝転がり、それから1分もたたないうちに、イビキをかいて寝始めた……。
シャルルは、毛布の代わりになりそうな物を探しに行こうとしたが、
「私もゲルマニアさんと同じように眠れますわ」
マリアンヌがそう言って、彼を引き止めた。彼女はそれを証明してみせようと、ゲルマニアの隣りで寝転がって見せた……。
「やれやれ、こんな光景を見たと言っても信じてもらえないだろうな……」
彼は、隣り合わせで眠りにつくムチュー王国の姫とゴーリ王国の姫を見て言った……。
そして、彼も寝ることにした。彼は遠慮して、2人の王女から少しだけ離れたところで眠りについた。
そのころ、クルップも海にいた……。彼は、無理やり出航させたキャラック船に乗っており、同乗した王室騎士団の騎士たちだけでなく、船員である水兵たちの指揮も取っていた。帆には、ゴーリ王室の紋章があり、数枚の帆の後ろにはゴーリ王国の国旗がたなびいていた。
シャルルたちの船とは違い、クルップのキャラック船は、夜通しの全速力で進んでいる。必死の形相の水兵たちが、シャルルたちの船よりも多い帆を操っており、スピードは速かった。
ウィリアムの予想は外れ、クルップの船は西へ進んでいるのだった……。どうやら、クルップの勘のようだ……。
「もし追いつけなかったら、オレたち全員死刑だぞ!!!」
操舵手の横にいたクルップが水兵たちに叫ぶ。どうやら彼は、脅しのハッパをかけて、船の速いスピードを維持しているようだ……。
クルップの近くや、水兵の邪魔にならないところでは、王室騎士団の騎士たちが、武器や防具の調整をしたり、簡単な訓練をしていた。いつでも戦えるようにしているようで、この様子だと、水上の戦闘でも大丈夫なようだ……。