愛憎渦巻く世界にて
その後、シャルルたちは船員がいない船首に行き、そこでたむろした。
「あの港町で少し目立つことをしたからな。追っ手の船が追いかけているだろう」
一番目立っていたウィリアムが言う。
「じゃあ、遠回りになる西じゃなくて近い北を目指したほうがいいんじゃないか? 追っ手に追いつかれたら、まずいんだから」
シャルルがそう言うと、ウィリアムは指をチッチッチッとやり、
「追っ手の連中は、我々が必死に逃げていると思っているだろうから、今ごろ、北を進んでいるだろうさ!」
ニヤリとしながら言った。
「私の部下たちは馬鹿じゃないぞ?」
これはゲルマニアだ。
「あら、ゲルマニア人は脳筋だと思っていました」
そして、これはメアリーだ……。
「なんだと!!!」
ゲルマニアが怒り、メアリーにつかみかかろうとした。
しかし、メアリーは素早く避け、ゲルマニアは無様に床に倒れこんだ……。
「こ〜の〜!!!」
ゲルマニアは激怒し、メアリーとゲルマニアの鬼ごっこが、船で繰り広げられることとなった……。
夜になり、シャルルたちや船員たちは、船上でディナーを取った。ビール樽が開けられ、船員たちはがぶがぶとビールを飲む。メニューは、パンとベーコンとザワークラウトだった。
シャルルたちはまだ船首におり、そこで食事と飲酒をしていた。結果はわからないが、メアリーとゲルマニアは、鬼ごっこでくたびれているようだ……。ただ、船員たちに怪しまれることもあり、シャルルとメアリーは、質素な食事と断首ということで我慢してもらうことにした。なので、ウィリアムとゲルマニアとメアリーは気を使って、自分たちもできるだけ質素になるように、船員たちと同程度にした。ウィリアムの食事を見た船員たちは、「今どき珍しい金持ちだ」とか言っていた。
「この戦争が終わったらどうするんだ?」
質素でも楽しい食事をしたいと思ったウィリアムが、話題を持ちだす。
「ぼくは、故郷の村を立て直したい。そして、そこで農業をやるよ」
故郷である農村が焼け野原となったシャルルがそう言うと、
「私にも責任があります。私にも手伝わせてください。……私はもう王室にはいたくありません」
マリアンヌが申しわけなさそうに言った。
「そんな! マリアンヌ姫は、ぼくのような戦災者を励ます存在であってください!」
シャルルが慌てて言う。
「私なんかは、皇帝になりたくないと思っているぞ?」
「そんなことを言わないでください!」
ウィリアムの言葉に慌てたメアリーが言う。彼女の手には、食べかけのライムがあった。
「羨ましい人生設計だな。私はなりたくても、国のトップにはなれないというのに」
ゲルマニアがザワークラウトを食べながら、マリアンヌとウィリアムに、やれやれとした口調で言った。
「あら? 馬鹿な兄がいなくなれば、ゴーリ王国の国王になれるのではないですか?」
メアリーの言葉に、ゲルマニアは顔に薄笑いを浮かべた……。