愛憎渦巻く世界にて
第14章 コウカイ
太陽に照らされた海を、一隻のガレー船が進んでいた。波は穏やかで、追い風による横帆と20本のオールが船を進めている。その船にあるタカミ帝国の手作りの旗は、潮風によってたなびいていた。
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今日も上に太陽がある! 空は輝きを持つ!
今日も上に太陽がある! 船乗りに一日の真ん中を告げるのだ!
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船のマストの根元にいた少年が歌っていた。彼のすぐ近くには、1人の少年と2人の少女が座っており、彼の歌をしみじみと聴いていた。
そして、彼が最後まで歌い終わると、すぐ近くに座っている3人だけでなく、何人かの船員も拍手をした。
「いい歌声だったよ!」
「母上似だ。私の母上は、場末の酒場の歌手だったのだ」
「ウィリアム様のお母様は、有名な歌姫だったのですよ!」
歌っていたのはウィリアムで、すぐ近くの3人はシャルルとマリアンヌとゲルマニアだった。
「船長!!! 航路についての相談が!!!」
そのとき、船の操舵輪のそばにいた航海士が、船長であり船首であるウィリアムを呼んだ。ウィリアムを先頭に、シャルルたちは操舵輪のところへ向かう。ウィリアムは、ポケットから地図を取り出し、歩きながらそれを見ていた。
操舵輪は操舵手が握っており、そのそばには海図を手にしている航海士がいた。
「トラアン島の北側と南側のどちら側を通過しますか?」
彼は海図上にある小島を指さした。
このトラアン島という島は、どの国の持ち物でもない孤島だ。タカミ帝国とムチュー王国とゴーリ王国の3国の間で、この島の領有権についての問題がある。
「島の北側を通過しろ」
ウィリアムは、自分の地図を見ながらそう命令した。
「面舵だ!」
航海士が操舵手に、舵を右にきるよう命令した。
操舵手が操舵輪を右に回し始めると、すぐにシャルルたちの船は右に曲がり始めた。
「帆の向きを変えろ!!!」
次に航海士は、帆を操る船員にそう命令した。
船員たちが、追い風になるように、帆の向きを調整する。
「予定より早く着けば、ボーナスを出すぞ!!!」
突然、ウィリアムは、船員たちに向かってそう叫んで、ハッパをかけた。
「おおっ!!!」
船員たちは活気づいた。
「メアリー、向こうに着いたら、ボーナス用の金をすぐに確保してくれ」
「……ハイハイ」
ウィリアムとメアリーは小声でそう会話した……。