愛憎渦巻く世界にて
シャルルたちが出航したころ、クルップたちゴーリ王室騎士団は、港町キーブルクに着いた。シャルルたちに似た連中がいるという情報があったからだ。
クルップは部下の騎士たちに港町を捜索させており、自分はこの港町の警備隊長から話を聞きながら、朝日に照らされている埠頭を歩いていた。
すると、1隻のガレー船を嬉しそうな様子で見送っている男がおり、
「あの船がどうかしたのか?」
気になったクルップがその男に尋ねる。
「あの船の船長さんは親切な方でね! 雇わない代わりにと、金貨を1枚くださったんですよ!」
男が嬉しそうに金貨を見せる。
「ふ〜ん、この御時勢に物好きな奴がいるものだな」
クルップはそう言うと、ポケットから小さな望遠鏡を取り出し、どんな物好きな船長なのかを見てみた……。
「……嘘だろ?」
望遠鏡に映っている船長の顔を見て、クルップは驚いていた……。男は不思議そうにクルップを見ていた。
「まさか!?」
クルップは、その周りにいた面々を見てみた……。すると、
「おい!!! 軍艦を用意しろ!!!」
クルップはすぐに、警備隊長に命令した……。
言うまでもなく、船長はウィリアムで、その周りにいたのはシャルルたちだった……。
「この港に停泊中の軍艦はありません! 呼び戻したとしても、1週間はかかります!」
警備隊長の返答に、クルップは舌打ちした。それでは、シャルルたちの船に追いつけないからだ。攻撃手段などが心細いため、商船などの民間の船を使うわけにはいかなかった。
「あの船はなんだ?」
クルップは、ふと目に止まった船を見つけて言った。その船は造船所にあり、労働者たちが作業を始めようとしていた。
「あの船は、もうすぐ進水式を迎える軍艦です。キャラック船と言って、我が軍の最新式の艦です」
クルップが見つけたのは、ガレオン船の原型ともいえるキャラック船という帆船だった。ガレオン船よりは弱いが、ガレー船よりは強い。ムチュー王国でも造船が進められているが、ゴーリ王国には遅れていた。ゴーリ王国第1号のキャラック船が、この船というわけだ。
「あの船を使うぞ!」
クルップはそう言うと、造船所へと向かった。
「ちょっと待ってください! あの船は進水式がまだなんですよ!」
警備隊長がクルップに待ったをかける。
「このままゲルマニア様たちを逃してしまえば、進水式の前に君はクビになるぞ!?」
クルップがそう脅すと、警備隊長はビビった。だが、
「最後の点検も終わっていないので危険ですよ。もし船に欠陥があって、それで沈没したら、責任を取っていただけるのでしょうな?」
警備隊長はクルップに脅し返した……。
「ああ取ってやるとも!!! わかったら、さっさと造船所に出航の命令を出してこい!!! それと、町にいる水兵どもを集めてこい!!!」
クルップが大声を張り上げてそう言うと、警備隊長は小さく悲鳴をあげてから、造船所へと突っ走っていった……。