愛憎渦巻く世界にて
ウィリアムが面接官でメアリーが書記ということで、船員の採用試験が始まった……。
「それでは、あなたから始めます」
そう言ったウィリアムの目の前には、頭も身体もそれほど良くはなさそうな中年男性が座っていた。
「おう」
男のこの返事を聞いたウィリアムはため息をついた……。
「……あのさ、そんな返事、やまさん(まだ就活中の大学4年生)でもしないよ」
ウィリアムはあきれたという口調でそう言った……。
「あっはい」
「『あっ』はいらない。やまさんのモノマネをしているのか?」
「……はい」
「では、志望動機を聞かせてください」
「志望動機?」
「なぜ、私の船で働きたいのかだよ。やまさんの大学の学生でさえ、前もって考えてくるよ?」
「いきなりのことなんだから、そんなの考えてないですよ!」
「そうかな? それじゃあ、すぐ後ろの人、言ってみてくれる?」
「私は、幼い頃から冒険というチャレンジをしたいと強く願っており、チャレンジ精神あふれる御社の方針にひかれ、志望しました!」
男のすぐ後ろにいた別の男が、しっかりとした口調でそう答えた……。
「それ絶対、やまさんが考えただろ!? いつどこで求人票を読んだんだよ!? それに、会社じゃないから「御社」なんて言わないだろ!!!」
「ハイハイ、あなたはもうお帰りになられてけっこうですよ。本日の結果は、後日お知らせします」
ウィリアムが、ツッコミをスルーした様子で冷たくそう言うと、男は突然、土下座を始めた……。
「お願いです!!! 私を雇ってください!!! 私たち家族はパンも喰えない有り様なんです!!!」
男は泣きながら言った……。
ウィリアムはメアリーの顔をチラリと見た後、
「あなたを雇うことはできないが、あなたと御家族の腹をしばらく満たすことはできる」
そう言うと、土下座している男の目の前に、金貨を1枚置いてやった。
「おおっ!!! ありがとうございます!!! これで1ヶ月は食いつなぐことができます!!!」
男はありがたがっている様子で、金貨をポケットにしまう。
「市場が閉まる前に、早く行きなさい」
男は何度も頭を下げながら、酒場から出ていった……。
文面だけだと美談のようだが、シャルルたちの目には、読者向けの人気取りの光景にしか見えなかった……。
そのお涙ちょうだいシーンが終わるとすぐに、採用試験は再開された。かなりの大人数なので、選考には時間がかかりそうだ。