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愛憎渦巻く世界にて

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 シャルルたちが買おうとしている船の持ち主は、町に何軒かある酒場のうちの1軒にいた。持ち主である初老の男は、酒場のカウンター席に座り、酒をがぶ飲みしながら、年老いたバーテンダーに愚痴をこぼしていた……。
「ヒック! 早く……戦争が終わってくれねえと……、俺の命が……先に……終わっちまうつーの!!! ヒック!」
船の持ち主であるヒゲ面のこの男は、あの船を使っていた貿易商で、商売相手はムチュー王国の人々だった。しかし、この戦争のせいで、ムチュー王国相手の商売ができなくなり、収入源が途絶えてしまった……。そして、その憂さ晴らしにと、ここでやけ酒を飲んでいるのだ。彼の名前は、ドレスデンという。
「ヒック! 借金取り……どもが、早く金を返せと……毎日のように押しかけてきやがる!!! 今の俺にとっての……最大の敵は、ムチュー人じゃなくて……借金取りどもだよ!!!ヒック!」
泥酔状態である。
「船を売って、金にしたらどうだ? そうすれば、ウチのツケも払えるからな」
バーテンダーがドレスデンに、吐き捨てるように言う。よほどツケが溜まっているのだろう。
「維持費がかかるから、早く売りたいに決まっているだろ!!! だけど、買ってくれる人が見つからないのさ!!! 船はもう足りていると、軍にも断られたよ!!!」
ドレスデンはそう言うと、ジョッキのビールをぐいっと飲んだ。暖炉の火が、かすかに流れている彼の涙を反射させていた……。

 そのとき、ウィリアムとメアリーが酒場にやって来た。2人は店内を見回した後、カウンター席のドレスデンの隣りに座った。
「スコッチの水割りとただの水をくれ」
ウィリアムが、テーブルにお金を置いて注文すると、バーテンダーはすぐに注文品を準備し始めた。メアリーの隣りに座っているドレスデンは、2人がタカミ人だと思っただけで、またビールを飲み始めた。
「ドレスデンという男がここに来ていないか?」
バーテンダーが、スコッチの水割りとただの水を置いたとき、ウィリアムがバーテンダーにそう尋ねた。ドレスデンは、2人が借金取りだと思ったらしく、ビクッとしていた……。
「この人がそうだ」
バーテンダーは、この2人が借金取りではないと思ったらしく、すぐにドレスデンを指さして言った……。まずいと思ったドレスデンは、ビールを一気に飲み干し、
「ツケで頼むよ!」
そう言い残すと、すぐに席から立ち上がり、酒場から出ようとした。言うまでもなく、ウィリアムとメアリーが借金取りだと思ったからである。
「言っておきますが、私たちは借金取りではありませんよ。むしろ、あなたの借金の返済を助けに来たのです」
ウィリアムが振り返ることなく、酒場から出ようとしているドレスデンに言った。それを聞いたドレスデンは、立ち止まって振り返り、
「じゃあ、借金の整理屋だな!?」
嫌そうな顔をしながら、ウィリアムに言った。
「いいえ。あなたの船を買いに来たのです」
ウィリアムが言ったこの言葉に、ドレスデンは唖然としていた……。まだ10代の少年が言った言葉なのだから、当然の反応である。
「良かったな! 見たところ、この人は良家の御子息のようだぞ!」
ドレスデンにツケがあるバーテンダーは、嬉しそうな口調でそう言った……。
 ドレスデンは、信じられないという思いだったが、話だけでも聞いてやるかと、席に戻った。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん