愛憎渦巻く世界にて
シャルルたちは、埠頭に腰かけて座り、タカミ帝国行きのガレオン船の出航を見送っている。ちなみに、あの後すぐに、シャルルとマリアンヌとゲルマニアは、元の服に戻った。ただ、マリアンヌのティアラは目立つため、彼女の頭の上には戻らずに、再びシャルルの手荷物となった。
「次の連絡船にこっそり乗りこむか?」
どんどん遠ざかっていく自国の船をぼんやりと見ていたウィリアムが、提案口調でつぶやいた。
「次の連絡船はかなり先だし、なんとか乗り込めたとしても危険過ぎる」
ゲルマニアがすぐに却下した。
「では、船をまるごと1隻貸し切るのは?」
「密航のような危険な目的のために、船を貸す持ち主はいない」
「誰もいない船があるけど、勝手に使うことはできないよな?」
ウィリアムとゲルマニアの会話に割って入るかたちで、シャルルが埠頭の外れに係留されている無人のガレー船を指さして言った。
そのガレー船は、壊れているわけではなかったが、しばらく使われていないようだった。
「民の物を盗むなど許さんぞ! それに、錨に鍵がかかっているだろうから無理だぞ」
ゲルマニアがシャルルに怒った。
「冗談だよ冗談」
シャルルは釈明したが、すぐに何かを思いついた様子で、
「じゃあ、あの船を買えばいいじゃないか!?」
そう言った。しかし、
「アンタねえ。ガレー船とはいえ、船がいくらすると思っているのよ?」
メアリーに呆れた口調で言われた。だが、
「それしかないな」
ウィリアムはそう言うと、立ち上がり、どこかに向かって歩き出した……。
「ちょっと待ってください! ガレー船を1隻買えるまでのお金は持っていませんよ!」
メアリーも立ち上がり、ウィリアムに追いつくと、財布の中を見せた。少なくとも、この物語の作者よりかはお金があったが、小型ではない船を買うのには足りなかった。
「馬車と馬を売る」
ウィリアムは、自国の大使館から拝借した馬車と2頭の馬を、勝手に売ってしまうつもりのようだ……。
「勝手に売るのは、まずいですよ!」
メアリーは売るのをやめさせようとしたが、ウィリアムは歩き続ける。
「通りすがりの魔女に、馬車と馬をカボチャとネズミに変えられたということにしておく」
「すぐにバレますよ!!!」
それでも、ウィリアムは売るつもりらしく、構わずに歩き続けた。シャルルとマリアンヌとゲルマニアも立ち上がり、うるさく喋りながら歩き続ける2人についていく。