愛憎渦巻く世界にて
第12章 カンキン
翌朝の昼、シャルルたちの馬車は、ゴーリ王国の港町である『キーブルク』に着いた。シャルルたちは、乗ってきた馬車を馬屋に預けると、すぐに港の埠頭へと向かった。タカミ帝国へ向かう連絡船に乗るためだ。
港町『キーブルク』は貿易港だ。だが、ムチュー王国との戦争が始まると、ムチュー王国との商売が無くなり、タカミ帝国との商売にも支障が出たため、町はどんどん寂れていっていた……。何も知らないカモメたちの鳴き声が、悲しい港町に虚しく響いている。
「あの船だ!」
埠頭に着くと、ウィリアムが開口一番に、指さしして言った。
彼が指さすところには、係留された一隻のガレオン船があった。その船には、タカミ帝国の国旗が掲げられていた。
「大きい船だな!!!」
シャルルが驚いたのは無理も無い。なぜなら、ムチュー王国とゴーリ王国の艦船は、まだガレー船だけで、ガレオン船を持っているのはタカミ帝国だけなのだ。
そのガレオン船には、船に乗り降りするための幅広い木の橋がかけられており、そのすぐ近くの埠頭には、この船の船長と船員が乗船受付のためにいた。
「乗ろう」
シャルルがそう言って、ガレオン船のところに向かおうとしたが、ウィリアムに服の襟首を掴まれた。そして、ウィリアムはそのまま彼を、倉庫と倉庫との間の狭い路地裏まで引きずっていき、他のメンバーは彼らについていった。
「どうしたんだよ?」
シャルルがウィリアムに問いかける。
「あのさ。アンタたちも普通に船に乗りこめると思っているわけ?」
その問いかけには、メアリーが答えた。
「私やおまえやマリアンヌは、タカミ人からすれば外人だ。このまま乗りこめるわけが無いだろう?」
ゲルマニアが答えを補う。
「じゃあ、どうするんだよ?」
シャルルがさらに問いかける。
「安心しろ。すぐそこにあるボロ布を持ってこい」
シャルルは路地裏に落ちていたボロ布を拾い、ウィリアムに渡した。ウィリアムは、ナイフを取り出していた。
「これなら2人分できるな」
ウィリアムはそう言うと、ナイフでボロ布を切り始めた。
「おお、ぴったりだな!」
ウィリアムとメアリーとゲルマニアの目の前には、ボロ布と下着だけというみずぼらしい格好のシャルルとマリアンヌがいた……。
「タカミ帝国に着くまでは、奴隷のフリをしていろ」
シャルルとマリアンヌは、ウィリアムの奴隷のフリをして船に乗りこむのだ。
「……ちくしょう。姫、大丈夫ですか?」
「これぐらいのことは我慢できます」
マリアンヌは、口元に笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった……。
「私も奴隷のフリをするのか?」
ゲルマニアが、嫌そうな顔をしながら言う。
「残念だが、使えそうなボロ布はもう無いようだ」
ウィリアムは辺りを見回した後、そう言った。そして、
「しかし、別のフリをしてもらうことはできる」
ウィリアムはそう言うと、市場へと出かけていった……。