愛憎渦巻く世界にて
「これでよしと!」
シャルルとマリアンヌとゲルマニアは、牧草の山々の近くにいた。彼らは、馬車を牧草の山々の間に隠した。道からは牧草の影で見えない位置だった。
「ここで2人の帰りを待つことに……静かに!」
ゲルマニアは、閉じた口の前で人差し指を上に向けた。
シャルルとマリアンヌはきょとんとして黙ったが、次の瞬間に聞こえてきた音で理由を知る……。
パカッパ! パカッパ! パカッパ! パカッパ!
馬の速い足音が聞こえてきたのだ。蹄の音はだんだん大きくなり、一番大きな音になったとき、夜道を1人の騎兵が馬で走っていくのが見えた。その騎兵は、シャルルたちには気づかず、村へ走っていった。
「オレたちがいるのがバレたのかな?」
騎兵を見届けた後、シャルルがゲルマニアに言った。
「いや、いくらなんでも早すぎる。おそらく、国中に私たちについての連絡を回している早馬だろう。どちらにしろ、まずいな」
「ウィリアム様たち、大丈夫かしら?」
これはマリアンヌだ。
「まあ、あいつらなら大丈夫だろう。シャルル、牧草の上から村の様子を見てくれないか?」
「よしきた」
シャルルは、その村から1番近い牧草の山を登り始めた。
「ポイントカードは使えるのか?」
「……使えるわけないだろ。もしこの世界で使える場所があるなら、教えてくれ」
ウィリアムは、馬屋の主人と立ち話をしている。ウィリアムは、タヌキのイラスト付きのポイントカードを、主人に見せていた……。彼らのその横では、馬屋の従業員が、馬車を引く2頭の馬を世話していた。2頭とも腹ペコらしく、エサをモリモリと食べていた。
「けっこうポイントがたまっているのにな。では、Tカードは使えるのか?」
「……あのさ、この物語の時代設定は中世なんだからさ。ポイントカードが使えるわけないだろ?」
「なら、クレジットカードで。ブラックだぞ」
「……だからさ、時代設定に合ったセリフを喋れよ!」
主人は、少しキレ気味に言った……。
「あの、終わりましたけど……」
従業員が馬の世話を終えたようだ。そのとき、ゴーリ軍の騎兵が馬屋にやってきたが、ウィリアムは平静を装っていた。
「急がせて済まなかったな。ありがとう」
ウィリアムは、主人に料金を、従業員にチップを払ってやった。
「俺も急ぎで頼む」
騎兵は主人に言った。主人と従業員は、うんざりした様子で、
「すいませんがね。食事を抜け出して、この人の馬を世話してやったものでね。1時間ぐらい待っていただけませんか?」
主人がそう言ったとき、馬屋の住居の中から、「アンタ!!! スープが冷めちまうよ!!!」という主人の妻と思われる大声がした……。
「……仕方がないな。どうせ酒場に用があるから、そこで時間を潰すことにするよ」
騎兵はそう言うと、村の酒場へ歩いていった。
「じゃあ、気をつけてな」
主人はウィリアムにそう言うと、従業員を連れて住居に入っていった。どうやら、あの従業員は、主人の息子らしい。