愛憎渦巻く世界にて
「馬鹿者!!!」
サザエさんの波平のような怒声が、ゴーリ王国の城中に響き渡る……。怒声の主はゴーリ国王で、彼は謁見室の玉座から立ち上がって激怒していた……。その横には、ゲルマニアの兄と母親がおり、ゲルマニアの父親である国王を落ち着かせていた。妹であるゲルマニアに人質にされていた兄は、軽傷で済んだのだが、本人は心に大きな傷を受けたとか言っていた……。
国王の目の前には、クルップがひざまずいている。もはや死を覚悟した様子だった……。
「クルップよ、チャンスをやろう」
国王は、一転して静かな口調でそう言った。
「あ…ありがとうございます!!!」
クルップはひとまず安心できた。
そこで国王は、深く息を吸い、
「期限付きで軍をおまえに任せるから、ムチュー王国のマリアンヌを殺してこい!!! 期限は3ヶ月だ!!! それがおまえの余命にならないようにしろよ!!!」
そう一気に大声で叫んだ……。そのときの国王の顔を見たクルップは、ゲルマニアは父親似であるということを再認識した……。
「ハッ!!! ……ゲルマニア様とその他の連中はいかが致しましょうか?」
「ゲルマニアは見逃してやれ。あと、タカミ帝国と皇子と侍女もな。悔しいが、スムーズに同盟を結びたいからな」
「……少し難易度が高くありませんか? 誤って攻撃するのを止めてくれる機能は無いんですよ? フレンドリーファイアは避けられないと思いますが?」
「人生はベリーハードだ!!! さっさと行かんか!!!」
国王が怒鳴ると、クルップは逃げるように謁見室から出ていった……。
その次の日の夕方、シャルルたちの馬車は小さな農村に着いた。運転しているのは、シャルルだった。マリアンヌは疲れた様子で寝ていた。
「馬のためにも、この村で一休みしませんか?」
クタクタな様子のシャルルがそう言うと、まだ元気そうなゲルマニアが馬車から下り、歩きながら2頭の馬の様子を見る。
「両方ともかなり弱っているから仕方がないな」
ゲルマニアはそう言うと、車内にいるウィリアムに、
「この村で少し休もうと思う。私やマリアンヌやシャルルでは無理だから、おまえと侍女で調達などをしてくれないか?」
「わかった。メアリーは、水と食糧とゲルマニアとマリアンヌの服の調達を頼む。私は、馬屋に行って馬の世話を頼んでくるから」
「わかりました。お気をつけて」
メアリーは馬車を降りると、まだ開いている店に向かって走っていった。
「ゲルマニアは、馬車をどこかに隠しておいてくれないか? 暗闇でもけっこう目立つからな」
ウィリアムはゲルマニアにそう頼むと、馬車から2頭の馬を離し、馬屋へ連れていく。
「2人とも降りて、馬車を押すのを手伝ってくれ」
ゲルマニアが車内にいたシャルルとマリアンヌに言うと、彼らは馬車からおそるおそる降りて、周囲を見渡した。近くの耕地に、牧草の山が何個かあった。