愛憎渦巻く世界にて
死刑式の準備は終わり、王室専用の席には、ゴーリ国王などの王室メンバーが座った。もちろん、その中には、王女であるゲルマニアもおり、彼女の隣りには、彼女の兄がいた。式場である広場には、観衆もたくさん来ており、ガヤガヤと楽しそうにしていた。まるで、お祭りのようだ……。
少しすると、そんな騒がしい刑場に、ティアラを頭に乗せたマリアンヌが連行されてきた……。死を目前にして眠れなかった彼女は、やつれた顔をしていた……。
観衆たちは彼女に、ネット掲示板レベルの罵詈雑言を浴びせたが、ゴーリ王室の一同は、情けのつもりか、黙って彼女を見ていた。
「タカミ帝国のウィリアム殿下、および、イーデン大使殿の御到着でございます!!!」
式の進行役らしい男が、高らかにそう言うと、式場にウィリアムたちが馬車でやって来た。ゲルマニアは、その馬車を睨んでいた……。
馬車は来賓席の近くで止まり、ウィリアムとメアリーとイーデンが、ゆっくりと降りてきた。
「…………」
その途端、式場は静まり返った……。皆、目を丸くして、ウィリアムたちを見ていた……。
なぜなら、ウィリアムには首輪と手錠と猿ぐつわがかけられており、メアリーが首輪からのヒモを握っていたからだった……。おまけに、メアリーは、もう片方の手にムチを持っていた……。彼らの横にいるイーデンは恥ずかしそうにしていた……。
これは、メアリーがウィリアムが勝手な行動をしないようにと考えた方法であった……。もちろん、当人たち以外は、そのことを知っているわけないが……。
やがて、式場のスタッフ(?)が、おそるおそるウィリアムたちを席へ案内した……。
「服を着ているからいいが、もし全裸なら、この小説が『R−18』になるだろ!!!」
ゲルマニアの兄がツッコミを入れる……。
「いや、ひょっとしたら、体を張って『君主政治の時代は終わった』ということを表現しているのかもしれないぞ」
ゲルマニアがボケる……。
「そんなわけあるか!!! そんなこと、作者も意図してねえよ!!!」
「まあ、黙って見守っていよう」
「おいおい、ウィリアムの奴が何か喋っているけど、モゴモゴしているだけでわからねえし、後ろのメイドらしき女にムチで叩かれているよ……。ある人の小説みたいに、『R−18』にしろと誰かに言いがかりをつけられる前に、あいつらをここからつまみ出したほうがいいんじゃねえのか?」
「それより、あの死刑執行人を見てみろ。あんな珍しい死刑執行人は見たことが無い」
死刑執行人に変装しているシャルルが、式場に入ってきた。彼は、自分の体よりも大きい斧を引きずりながら歩いていた……。幸い、観衆の目はウィリアムたちのほうを向いていた。それでも彼の登場に気づいた一部の観衆は、彼を見て唖然としていた……。
「いくらなんでも不自然過ぎるだろ!!!」
ゲルマニアの兄がツッコミを入れる。
「おそらく、やるはずだった死刑執行人が腹痛か何かで倒れて、奴は代わりなのだろう」
「あんな小さな体で、あんなデカい斧を使えるのか!? JRPGじゃねえんだぞ!!!」
「ハロワで紹介された仕事が死刑執行人しか無かったんだろう。就職難の時代だからな」
「いくらなんでも他にあるだろ!!! 死刑執行人の仕事しか無いとか、どんだけ就職難なんだ!!!」
「それより、兄上。始まるぞ」
「返答に困ったからって、話を変えるな!!! だいたい、このやり取りはなんなんだ!!!」
ラッパが鳴り、死刑式が始まった……。シャルルは、姫から少しだけ離れたところで立ち止まっていた。