愛憎渦巻く世界にて
同じころ、死刑執行用の大きな斧も置かれている拷問室に、マリアンヌの死刑執行を担当する大男が入ってきた。大男は黒い覆面を被っており、黒い服で身体を覆っていた。
死刑執行人である大男は、棚の中に立てかけてあった大きな斧を取ろうとした。
「!?」
しかし、大男は、その斧の向こうにシャルルが隠れていることに気づき、ビックリした。なにせ、目をしっかりと開き、自分のほうを睨んでいたのだ。その目つきは、死刑執行人をビックリさせるほどのしっかりとしたものだった。
だが、大男はすぐに落ち着くと、足をつかんでシャルルを引きずり出した。
「この!!!」
シャルルは抵抗し、大男に腹パンを喰らわせた。
「ぐっ!」
パンチがみぞうちに入ったらしく、大男は痛そうにして、シャルルの足から手を離した。しかし、それは一瞬だけのことで、
「やりやがったな!!!」
大男はカンカンになり、シャルルを両手で強く持つと、彼を思いっきり投げ飛ばす。
ガラガラガシャン!!!
投げ飛ばされたシャルルの身体は、壁に立てかけてあった拷問器具に当たった。拷問器具がどんどん音を立てて倒れていく。大男はシャルルにとどめをさそうと、彼の元に、のしのしと歩いていった。
シャルルは痛みで立ち上がることができず、最期を覚悟した……。
ガーーーン!!!
そのとき、大男の頭に、拷問器具の1つが見事命中した……。大男は気絶したらしく、そのままうつ伏せで倒れる。
シャルルは、急いで大男の服を剥ぎ取り、死刑執行人に変装し始めた……。
「おい、まだか!?」
そのとき、拷問室の外から声がした。その声の主が部屋に入って来ると察したシャルルは、気絶している大男をどこに隠すかを考えた。
{えーい、ここでいいや!}
彼は投げやりな気持ちで、両開きになっている拷問器具の中に、大男を押し込むと、急いで両開きになっている扉を閉めた。
「ぐはっ!!!」
なんか変な叫び声が嫌な音ともに聞こえたが、急いでいた彼の耳には届かなかった……。
「まだ準備しているのか?」
そのとき拷問室のドアが開き、兵士が言った。
ギリギリセーフでごまかせたと思ったが、その兵士は、死刑執行人に変装しているシャルルを、怪訝そうに見て、
「なんか背が縮んだか?」
そう言った……。シャルルはギクリとしたが、
「気のせいだよ」
そう言ってごまかすと、
「まあ、いいや。後はおまえの到着を待つだけなんだから、早く来いよ」
「わかった」
シャルルは、大きくて重い斧をひきずりながら、兵士の案内についていった。
誰もいなくなった拷問室にある『鉄の処女』という拷問器具の下から、大男の血が流れ始めていた……。